あなたもきっとやっている……内出血、骨折、そして腰痛のリスクもある恐ろしい「危険な介護」とは
看護や介護などを含む「保健衛生業」では腰痛が起こりやすいことが知られている。腰痛の主な原因となっているのが介助動作であり、力任せの介助は介助者だけでなく、介助される人(利用者)にもケガを負わせてしまうリスクがある。事故を防ぐにはどのような介助をすればいいのか。埼玉医科大学で客員教授として介助技術を教えている根津良幸氏が、著書『写真と動画でわかる! 埼玉医大式 力がいらない介助技術大全』のなかから最も大切な技術を紹介する。
人体を握ってはいけない。握るのはケガのもと
自分の腕や脚を他人にギュッと握られるのは、気分のいいものではないでしょう。普段がそうなのですから、介助のとき、介助を受ける人(利用者)の体を握るのは、厳に慎まねばなりません。 とくに高齢者は皮膚が薄く、弱くなっているので、握っただけで内出血を起こしかねませんし、骨粗しょう症がある場合は、骨折させる危険すらあります。介護施設で暮らしていたり、あるいは病院に入院中の高齢の利用者を「握って」介助するのは、危険行為とすら言えます。実際、埼玉医科大学国際医療センターの川井信孝教授(医療安全管理学)はこう述べています。 病院には、脳血管障害などが原因で長期臥床(ちょうきがしょう/長期間、寝たきりで安静)となる患者さんがいます。姿勢を変えないと「褥瘡(じょくそう/床ずれ)」ができるので、定期的に寝返りの介助を行いますが、高齢、麻痺、寝たきりという条件が重なると骨がもろくなり、軽い力がかかっただけで折れてしまう場合があります。(『埼玉医大式 力がいらない介助技術大全』より) 人は誰でも、体の一部を握られると身を固くして抵抗します。反射的に起こるこの反応は、介助の妨げになります。スムーズに介助するためにも、利用者の体を握ってはいけないのです。では「握る」代わりにどのようにすればいいのでしょうか?
「触れる」介助にはさまざまなメリットがある
答えはただ一つ。あくまでも利用者の体に「触れる」だけにすることが肝心です。それも、指を押し付けたりせず、利用者の体に指先をふわっと当てるだけにします。 指先を当てるだけにすると力が伝わらないので、利用者の体に力が入って固くなることはありません。介助のときに利用者が苦痛を感じることもなくなります。また、接触面積が小さくなるぶん、握って行う介助に比べて感染リスクの低減が期待できます。 触れるときは、下の写真の(1)(2)のように中指・薬指の先端だけを利用者の体に当てます。親指・人差し指・小指は利用者の体から浮かしておき、握った状態にならないように気をつけましょう。 立ち上がりなどをサポートするためにお尻を支えるときは、(3)のように下から手を差し入れ、中指・薬指だけで利用者の座骨に触れて、ほかの指の力は抜くようにしてください。