美輪明宏 「肝心なのは、幸せか不幸せかは自分の心持ち次第」 89歳の実にカッコいい人生論(レビュー)
中3だったと思う。家で寝転がってテレビを見ていたら、丸山明宏(当時)という名の歌手がいきなり『ヨイトマケの唄』を歌った。すぐに寝転がって鑑賞する歌ではないとわかり、正座をして聴き入った。5、6分かかる、初めて聴くドラマチックな歌だった。まだ私にも感受性があった頃で、後から後から涙がとめどなく流れたのを、昨日のことのように覚えている。その前の『メケ・メケ』時代を知らず、それが著者・美輪明宏を知った最初でした。ああ、あの頃にはもう戻れないのですね。 本書はスポーツニッポン紙上に連載された「美輪の色メガネ」を厳選して加筆・補整を行い、まとめたもので、読者の人生相談風の質問に答えていますが、その相談は本誌の読者層の質問と重なるでしょう。若い人の相談もありますが、主だった層は中高年で、多くは彼らに答えているからです。 著者は何度か患いつつも89歳になりました。ずいぶん病を心配したこともありましたが、つまり本書は80代の著者が受けた人生相談ということになります。著者は長崎生まれで、子どもの頃に被爆しています。故に戦争を憎む気骨の人として知られているのですが、何しろあの安倍晋三氏を指して「安倍首相も自民党に投票した人もまず自分が戦地に行きなさい」と言ってしまえる人なのです。 さてどんな風に読者の相談に乗るのかが大いに気になるところですが、その前に「はじめに」をじっくりお読みください。「こんにちは、美輪明宏です」に始まるそれは、著者の基本的な考え、つまり人生観が提示され、「肝心なのは、幸せか不幸せかは自分の心持ち次第ということ。地獄も極楽もあなたの胸三寸にあるのです」と締めくくられるのですが、実にカッコいい89歳です。我らの先達であることは間違いありません。さあ、あなたは響く言葉をいくつ発見できるでしょうか。 [レビュアー]立川談四楼(落語家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社