AIチャット登場も広告も増えた楽天モバイルの「Rakuten Link」、機能拡充する理由と通話料の関係
楽天モバイルは、「Rakuten Link」に、AIと会話ができる「Rakuten Link AI」を導入します。メッセージアプリのユーザーインターフェイスでチャットをするように生成AIを使える仕組みで、使い勝手はグーグルがGoogleメッセージに組み込んでいる「Gemini in Googleメッセージ」に近いと言えるでしょう。発表会で試した限り、その中身もまずまずといった完成度でした。 【画像】ホーム画面でデータ使用量や料金の確認も可能になる Rakuten Linkは、SMS/MMSの延長線上にある「RCS(Rich Communication Services)」という規格を用いたコミュニケーションアプリとしてスタートしました。 一方で、2023年にはその性格を変え、楽天市場や楽天ペイなどの各種サービスとの連携を強化。同社グループのポータル的な位置づけになっています。Rakuten Link AIも、その延長線上にあります。 では、なぜRakuten Linkはこのような形になっていったのでしょうか。ここでは、通話料という観点でその理由をひも解いていきます。 ■ エコシステム連携を重視、変わるRakuten Linkの役割 2023年10月に楽天エコシステムとの連携を強化したRakuten Link。元々は比較的シンプルな通話やメッセージをやり取りするためのコミュニケーションアプリでしたが、徐々にその位置づけが楽天グループのスーパーアプリのように変わってきています。Rakuten Link AIが追加されると、その機能はさらに多彩になります。このタイミングに合わせて、データ使用量や料金を表示する「my楽天モバイル」の情報もRakuten Linkに加わります。 実際、現状のRakuten Linkは、立ち上げるとまずホーム画面が起動します。ここには、自身の楽天会員情報に加えて、楽天市場などで開催されているイベント情報が表示されるほか、ニュースやキャンペーンなどの情報もテンコ盛り。その下には、楽天グループの各サービスを呼び出すボタンが表示されています。 また、楽天キャッシュの送信や楽天ポイントカードの表示といった機能も備えています。もはや、コミュニケーションアプリのカテゴリーにはくくれない、さまざまなサービスへのアクセスが可能になっているというわけです。ホーム画面から離れても、“エコシステム推し”は続きます。メッセージタブを開くと、メッセージ一覧の間に楽天市場の広告が表示されているほか、いつの間にか友だちになっていた公式アカウントからもキャンペーン情報が送られてきています。 通話タブはシンプルかと思いきや、しれっと画面上部に楽天グループの保険の情報がポップアップされ、その下にも楽天市場の広告が表示されていました。これだけ数が多いと、操作時に間違って広告をタップしてしまいそうになります。スマホに搭載される電話やメッセージアプリは、ユーザーインターフェイスがシンプルで、基本的には通話なら通話、メッセージならメッセージといった目的を達成するために特化されています。Rakuten Linkは、こうしたアプリとは性格が異なると言えるでしょう。 ただ、ここまで“エコシステム推し”が多くなってくると、使い勝手にも影響が出てきます。特に、メッセージアプリの広告が紛らわしく、うっかりタップしそうになります。ホーム画面からわざわざ通話なりメッセージなりを呼び出さなければいけないのも少々面倒。エコシステム連携を強化した結果として、コミュニケーションアプリとしての側面がやや弱くなっているような印象も受けます。 ■ エコシステムの押し上げ効果を重視する楽天モバイル、Rakuten Linkからの誘導も 楽天モバイルがRakuten Linkのスーパーアプリ化を進めている背景には、同アプリの収益性を高めるためという狙いが透けて見えます。実際、楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、決算説明会でRakuten Linkの広告収入がARPU(1ユーザーあたりの平均収入)を上げるための一助になる旨を語っていました。 また、楽天グループは、楽天モバイルのユーザーがより楽天市場などのサービスを使うことによるアップリフトを重要指標として挙げています。実際、楽天市場や楽天トラベル、楽天カードといった楽天グループの主要サービスにおいて、楽天モバイル契約者は非契約者より利用額が多くなるというデータも出ています。SPU(スーパーポイントアップ)で楽天モバイル契約者を優遇しているのは、その代表例と言えるでしょう。 Rakuten Linkも同様に、グループ内の告知を増やすことユーザーの誘導を図っているというわけです。コミュニケーションアプリとして立ち上げる頻度も高いため、それだけ広告価値は高いと言えるでしょう。他社のメディアやアプリに広告を出すのと違い、大きなコストもかかりません。無料の通話やメッセージをフックにユーザーを集め、エコシステムを効率的につなぐ媒体を作ったと考えれば理解しやすいでしょう。 無料と言ってもRakuten Link同士であれば、LINEなどのアプリと同様、かかるコストはかなり限定されます。設備構築や維持などのコストはかかるものの、データ通信網を通る通話アプリ、メッセージアプリが無料というのも珍しくありません。一方で、楽天モバイルから“外”へ出ていく通話やSMSは、本来、無料で提供するのが難しい事情もあります。 ■ 接続料もコスト要因か? 有料オプションのプッシュも 「アクセスチャージ」とも呼ばれる「音声接続料」の存在がそれです。日本では、各キャリアが着信時の接続料を設定しており、最終的には事業者間でそれを精算する制度が採用されています。そのため、自社のネットワーク内で完結する通話と、他社に接続する場合ではコスト構造は大きく変わってきます。実際、各キャリアが家族間や親子間の通話定額などを無料で提供できているのも、こうした仕組みがあるからです。 逆に、他社への発信は、従量料金が発生するということです。発信されればされるほど金額がかさんでしまうので、各社とも、そのリスクヘッジとして音声通話定額には一定の料金を課しています。ちなみに、22年度時点でドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は、それぞれ30秒あたり1.25円、1.37円、1.53円に設定されています。ただし、着信側のトラフィックが多ければ接続料は受け取ることも可能。10数年前にはドコモより1.46倍程度の差が開いており、100億円以上をソフトバンクに支出していたことも明かされています。 とは言え、楽天モバイルの場合、無料でかつ無制限に通話ができ、発信量が増えるインセンティブが強く働いています。ユーザー数を見ても、自社のネットワーク内で完結するケースはまだまだ少ないはずです。そのため、シンプルなRCS対応のコミュニケーションアプリでは赤字を生み出すだけになってしまうリスクがあります。何かしらの収益を生み出すためには、広告やエコシステムとの連携は必然だったと言えるでしょう。 楽天モバイルは、一般的なVoLTEによる音声通話もでき、こちらには1回15分までの国内向け音声通話が定額になる「15分(標準)通話かけ放題」というオプションが用意されています。料金は、月額1100円。15分を超えると、30秒あたり22円の従量制料金がかかります。他社はおおむね1回5分や10分ということを考えると、比較的長い音声通話が可能。my楽天モバイルを開くとすぐにプッシュで契約を勧めてくるほどで、長時間の音声通話にはオプション料金を払ってもらいたい本音も見え隠れします。 なお、楽天モバイルの15分(標準)通話かけ放題は通話時間が他社より長いぶん、オプションとしては少々割高。例えばNTTドコモの「eximo」や「irumo」につけられる「5分通話無料オプション」は、月額880円。auの1回5分まで音声通話が無料になる「通話定額ライト2」も、同様に880円です。ソフトバンクも1回5分で、「準定額オプション+」を880円で提供しています。 一方で、これを超えた完全定額は、各社とも1980円に設定しています。楽天モバイルの15分(標準)通話かけ放題は、5分と完全通話定額の間を狙った料金設定になっていると言えそうです。ただ、楽天モバイルの場合、15分を超える通話をしたい場合には、オプションの選択肢がなく、Rakuten Link一択になってしまいます。iPhoneの場合、着信が通常の電話アプリになり、Rakuten Linkで折り返しづらいといった問題もあるため、やはり選択肢はあった方がいいでしょう。完全定額オプションの導入にも、期待したいところです。
ケータイ Watch,石野 純也