『テレビに騙された』兵庫県知事選挙が突きつけた刃 私たちは変われるのか?
「あなたたちは嘘を伝えていた」街頭で浴びた厳しい声
11月17日、午後8時。MBSでは開票速報特番(配信)ですぐに斎藤元彦知事の当選確実の速報を打った。想定をはるかに超える大逆転劇だったのだが、兆しは選挙期間中の街頭取材で感じていた。 【ポッドキャスト】兵庫県知事選挙や国政のちょっと深ーい話 当初は「たった一人で始めた」という斎藤知事の選挙戦だったが、演説会場の人垣と熱気は他の候補とは一線を画すものがあった。人の輪は日を追うごとに大きくなり、やがてうねりとなっていった。 一方でメディアに向けられた視線は非常に厳しいものがあった。斎藤知事を支持する方々に話しを聞いたが、「テレビに騙された」「あなたたちは嘘を伝えていた」と叱責を受けた。「これが民意だから」「(選挙で)あなたたちと私たちのどちらが正義かわかるはず」と厳しく指摘された。 斎藤氏に敗れた稲村和美候補が「何を信じるかの戦いになっていた」と漏らすように、事実とは何かを超え、何が正義かをめぐる異様なムードに包まれていた。 今回の兵庫県知事選挙が持つ意味は単なる一地方の首長選挙にとどまらない。私たちテレビメディアに対して強烈な問いかけがなされた選挙だと思う。果たしてこのままの選挙報道で良いのか?と。
選挙期間中のジレンマ 報道機関が抱える積年の課題
街頭やネットでの盛り上がりに比して、今回の兵庫県知事選挙でテレビは十分な報道ができていただろうか。MBSでは選挙が告示されて以降、関連の短いニュースに加え各候補者の主張を同じ秒数に揃えた、いわゆる選挙企画VTRを放送した。 一方で、斎藤知事の当選を目指すためにと立候補した立花孝志候補が発信した元県民局長の私的な情報や死因の根拠については扱わず、選挙戦終盤に22人の地元首長が稲村氏を支持すると表明した記者会見を取材はしたが報道はしなかった。 現実に起きている選挙戦のモメンタムを捉えてニュースにするという点で十分であったかは改めて問わなければならない。公職選挙法の公平性、放送法上の中立性を担保する必要は当然ある。ただその法の遵守をある種の建前にしているが、政党や視聴者からのクレームを避けたいという本音、潜在意識が働いてなかったか。 結果、テレビでは選挙に入ると報道する機会や分量が減ってしまう面がある。これがテレビでは有権者が投票する際に必要かつ有益な情報が、欲しいタイミングで十分に提供されないということにつながっている。選挙報道に携わった者であれば少なからず抱いてきた葛藤であり甘えであり、長年の課題ではないだろうか。