『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』──「前作と全く違うのに、同じ世界だと感じさせるぶっ飛んだ映画にしたかった」監督トッド・フィリップスインタビュー
先週末、全米で公開されるや否や、賛否がSNSを席巻している話題作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。社会現象ともなった前作の続編は、一体どんな展開をみせるのか。前作に続き監督を務めたトッド・フィリップスに話を訊いた。 【写真を見る】2作目『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で監督が意図したこととは?
偉業を達成した『ジョーカー』から5年
世界興収10億ドルを達成した初めてのR指定映画で、ヴェネツィア映画祭で金獅子賞、オスカーで主演男優賞を獲得した初のコミックブックキャラクターの映画。トッド・フィリップスが監督、ホアキン・フェニックスが主演した『ジョーカー』は、5年前、数々の快挙を達成し注目された。 その続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、1作目の話の直接の続きでありながら、アプローチはまるで異なる。この映画にかけた想いを、トッド・フィリップス監督に訊いた。 ──1作目公開前、『ジョーカー』は独立した映画だとおっしゃっていましたね。続編を作るつもりはないものと解釈していたのですが、気持ちが変わったのでしょうか? 実は、1作目を撮影している時から、半分冗談で話していたんですよ。これが成功して次を作れることになったら何ができるだろうか、という感じでね。まだ公開もされていないのに次を考えているなんて公言するのは厚かましいので、インタビューでは言いませんでしたが、頭の中にはあったんです。つまり、急に気が変わって続編を作ろうと決めたわけではありません。観客はアーサーを愛してくれたようだし、僕はホアキンと仕事をするのが好き。ジョーカーの世界に戻ってこられるのは嬉しかったです。 ──本気でアイデアを練り始めたのはいつでしたか? パンデミックが起こり、ロサンゼルスが都市封鎖して、誰もが家に籠ることを強いられた頃。僕と共同脚本家のスコット・シルバーは、毎日、映画の話題について話していました。そんな中で、『ジョーカー』の続編についても具体的に話すようになったのです。都市封鎖がなかったら、僕とスコットがあんなに長い話し合いをすることはなかったかもしれません。とにかく、これはそこから生まれたもの。難しかったのは、前作とまるで違っていながらも、同じ世界だと感じさせるものをどう作るのかでした。ホアキンはキャリアで一度も続編に出たことがありません。そんな彼が、これは新しい、エキサイティングだと感じてくれるものにする必要があったのです。 ■リー役に抜擢されたレディー・ガガ ──今回は、アーサーを愛してくれ謎の女性リーが出てきます。しかも、あなたはそれをミュージカルの形で語りました。リーを演じるレディー・ガガとは、あなたがプロデューサーを務めた『アリー/スター誕生』でもお仕事されていますが。 アーサーは人生のほとんどを愛を求めながら生きてきました。そこへ、彼を必要としている女性が現れ、彼は最も欲しかったものを手に入れるのです。その方向を決めるのは、そう難しくはありませんでした。また、1作目で、アーサーはバスルームや階段で踊ったりしていましたし、彼の中に音楽があることは明らかでした。今度はそれをもっと前面に押し出そうと思ったのです。それが、レディー・ガガのキャスティングにつながりました。僕は『アリー/スター誕生』を通じて彼女を知っていましたし、彼女が歌うのは誰にとっても特別なことですから。 ──アーサーとリーは劇中で、スティービー・ワンダーの「For Once in My Life」や、ブロードウェイミュージカル『スイート・チャリティ』の「If My Friends Could See Me Now」、ミュージカル映画『バンド・ワゴン』の「That’s Entertainment」などを歌います。ホアキンは、ジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でも歌声を披露しましたが、キャッシュの歌い方を真似すればよかった前回とは違い、今回は誰もアーサーがどう歌うのか知りません。自由もあった一方、難しさもあったと語っていますね。 ホアキンとガガは面白い組み合わせでした。ホアキンは、彼女の前で歌うことに緊張していたと思います。彼女は最高のシンガーのひとりですから。一方で、ホアキンは、最高の俳優のひとり。だから彼女は緊張していたと思います。ふたりは、自分たちが釣り合うよう、お互いから学ばなければならなかったのです。 ■ファンの期待に応えるのか裏切るのか ──R指定ということもあり、1作目は、ハリウッドのメジャースタジオ映画としては控えめな予算で作られました。今回は前作より予算があったそうですが、違う意味での困難はありましたか? お金は決して困難を意味しません。もっとお金をもらえると、プレッシャーも増えますから。一番難しかったのは、人々に愛された作品にどう立ち戻るのかということ。1作目は、公開まで誰も気に留めていませんでした。でも、この続編はそうではありません。観客はそれぞれに違った期待をもっていますから。 ──あなたはドキュメンタリーで監督デビューし、『ハングオーバー!』三部作や『デュー・デート~出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断~』など、コメディ映画でキャリアを築いてきました。『ジョーカー』公開時のインタビューでは、「今の時代は、これは言っちゃだめ、あれもだめというのが増えて、何を言っても問題発言にされてしまいます。僕自身はコメディに対して腹を立てたことはないのですが、落ち着くまでは、ほかの映画を作らせてもらうことにします」と言っていましたが、今もそう思いますか? あの時はそんなことを言ったかもしれませんが、本気でそう言ったわけではありません。僕はまたコメディを撮りたいと思っています。今の世の中ではむしろ、人々はもっと笑いを必要としていると思いますしね。 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 10月11日(金)全国ロードショー 監督/脚本/製作:トッド・フィリップス 出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ他 配給:ワーナー・ブラザース映画 © & TM DC © 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. 取材と文・猿渡由紀、編集・遠藤加奈(GQ)