■「忠勤」が生んだ旗幟不鮮明な態度 　長盛は秀吉死後の派閥抗争の中で、豊臣政権の中枢を担う数少ない存在となります。そのため、秀吉から政務を託されていた家康と協調し、政権運営の安定化を図ります。長盛は政権内の混乱を抑えるために家康の大坂城入城を要請したり、家康暗殺計画を密告したりと家康を中心にした政権運営を支えるように尽力します。 　会津征伐に関しても、家康の長期不在による不安定化を懸念して反対し、三成と大谷吉継（おおたによしつぐ）による不穏な行動を密告するなど混乱の回避に努めています。 　しかし、三成たちの説得を受けた毛利輝元（もうりてるもと）が大軍をもって大坂城に入城すると、長盛は伏見城攻めや大津城の戦いに自軍を派遣するなど、突如として西軍へ加担するような行動を取ります。 　このような方針転換が、後に表裏者と呼ばれる要因となっていると思われます。 　見方を変えると、長盛は西軍に豊臣家の命運を握られているため、従わざるを得ない状況だったとも考えられます。増田家が関ヶ原の戦い本戦に参加しなかったのも、大坂城で豊臣家を守護する事を優先したからかもしれません。 ■長盛が見せた豊臣家への最後の奉公 　長盛は西軍の敗戦を受けて、出家し謝罪の上で死罪は免れたものの、大和国郡山22万石を改易され、武蔵国（むさしのくに）岩槻で高力家の預かりとされます。豊臣家自体は、勢力を弱めつつも一定の影響力を持ちながら存続します。 　そして、増田家も次男盛次（もりつぐ）が徳川義直（とくがわよしなお）に仕える事で存続を許されます。これは家康の配慮によるものでした。 　しかし、幕府と大阪方の関係は悪化し続け、大阪の陣が勃発します。この時、長盛は幕府からの協力依頼を断ったとも言われています。 　また、冬の陣では徳川方として戦っていた盛次も、夏の陣においては尾張家を出奔し、大坂城へ入城します。これは盛次自身の強い意志もあったようですが、長盛と相談の上での行動だったと言われています。盛次は長宗我部盛親（ちょうそかべもりちか）隊に属して戦い、八尾・若江の戦いで殿を務めて戦死します。 　そして、豊臣家が滅亡すると、長盛は豊臣家への加担の責任を取る形で自害します。長盛は親子二代で豊臣家への「忠勤」を示しました。 ■「忠勤」は誤解を生みやすい 　長盛は関ヶ原の戦いでは東軍に協力したり、西軍を援助したりと、一貫性のない行動を取っているように見えます。 　ただ、それは豊臣家の存続を考えてのものであり、大坂の陣での行動を見ると豊臣家への強い忠義心が垣間見えます。 　現代でも、組織に対して「忠勤」に励むものを、組織の犬やイエスマンと蔑む事が多いと思います。但し、それは一側面からしか見ていないだけなのかもしれません。 　もし関ヶ原の戦いにおいて、長盛が持つ裁量で豊臣家の力を西軍に投入していれば、もしくは本戦後に豊臣家を推戴し大坂城に籠城していれば、その後の状況は大きく変わっていたかもしれません。