「ゴミの山から尿入りペットボトルがニョキッと頭を出していた」その数なんと数百本…孤独死の現場からわかる65歳男性の“生前の生活”とは
目を凝らすと、それは注ぎ口付きのバケツであった。バケツのふちを囲うようにして茶色い尿石がびっしりとこびりついている。上東が取っ手を握ると、チャップンチャップンと波立って中の液体が揺れた。ほぼ8分目まで入っていたが、外にこぼれることはなかった。混濁してどろどろだったからである。凄まじいアンモニア臭だった。 そう、佐藤は、自らの寝床のすぐ隣にこのバケツを置き、その中に放尿しては、焼酎のペットボトルに移していたようなのだ。一体何日分の尿を溜めていたのだろうか。バケツの周辺を漂う凄まじいアンモニア臭に、思わず吐き気を催しそうになった。 部屋に入ってから20分ほど経っていた。ふた間のアパートはアマゾンの湿地帯さながら皮膚にまとわりつくような熱気が充満し、腕の毛穴という毛穴から汗を噴き出させてくる。頭を白いタオルで覆った上東の額からも、滝のような汗が流れていた。
心が病めばキッチンが、心疾患系ならリビングが汚れる
ふと、室内を見回すと、どこにもエアコンはない。 上東によると、この部屋を借りていた佐藤はもともと糖尿病の気があり、65歳で心臓発作で亡くなった。糖尿病は心疾患を合併することが多い。上東は、溢れ出る汗を服で拭いながら、つぶやいた。 「何らかの持病があったにせよ、この人の死因は暑さが関連してるだろうね。これだけの暑さだと、ゴミも相当な熱を持つからね。サーモグラフィで見ればわかると思うけれど、この部屋は夜でもかなりの温度だったと思う。よく、火事にならなかったよね。部屋ってその人のすべてが現れるの。心疾患系に罹った人は、まずリビングから汚れてくることがほとんどだね。リビングって、いわば心臓部分ですべての部屋に繋がるでしょ。逆に精神が病みだすと、キッチンとか水回りが汚くなってくるんだ」 私は絶句して丸いくぼみを見つめた。 高温注意情報が連日流れる暑さの中、佐藤は凄まじい自らの尿臭に包まれたゴミの山の中に、エアコンもかけずに、来る日も来る日もまるで義務のように体を横たえていた。 上東は顔から滝のような汗を滴らせながらも、和室の壁際にある5、6段ほどのタンスに目をつけていた。数十年は使っていると思われる木ダンスで、下半分が例のゴミに埋もれている。 上東は、タンスに飛びつくと上段に手をかけ、次々と中のものを引っ張り出していった。実は、私はこれで初めて「佐藤さん」の名を知った。古びた革ケースに、勤め先の名刺が入っていたからだ。さらにボロボロとなったこのアパートの賃貸契約書も出てきた。もう何十年も前から更新を繰り返して住んでいたらしい。親や子供がどうなっているかはわからない。財布はなかったので、恐らく警察が遺族に渡したのだろう。
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