ライジンガー博士から「ケッヘル目録」が第一生命ホールディングスの稲垣精二会長に贈呈された＝9月24日、東京・日比谷の第一生命

35年の短い生涯で900曲以上を作曲したモーツァルト（1756～91年）の膨大な作品を整理した「モーツァルト全音楽作品の年代別主題別目録」が60年ぶりに更新され、2024年版が新たに「ケッヘル目録」の名称で出版、日本で記者発表された。来日した国際モーツァルテウム財団のウルリッヒ・ライジンガー博士は「モーツァルトは多作な作曲家なので、作品を体系的に整理し、一般の人や専門家が正確に把握できるように改訂版を出します。90以上の作品が新たにケッヘル番号がつけられました。モーツァルトの作品を正確に把握できるようになりました」と話す。 【写真】改定が繰り返された「モーツァルト音楽作品主題目録」。右端が2024年版の「ケッヘル目録」 ■全作品目録のハードル モーツァルトの作曲はオペラ、宗教音楽、交響曲、室内楽曲、バイオリン協奏曲やピアノソナタなどあらゆるジャンルにわたる。なにしろ5歳で曲を作り、12歳のときにオペラを作曲、死の直前まで「レクイエム」を手がけていた。 モーツァルト自身も1784年から91年までの作品目録を作っており、父レオポルドは幼少期のモーツァルトの作品目録を作った。また、出版社は楽譜を売るために、愛好家は自分の楽譜のコレクションを整理するための目録を作った。しかし、これらは作品すべてを網羅していない。 モーツァルトは現在のように飛びぬけた天才作曲家として認識されていたわけでない。「モーツァルトを『造った』男　ケッヘルと同時代のウィーン」（小宮正安著）には、楽譜商、アントン・アンドレがモーツァルトの妻、コンスタンツェから直筆譜を買い取り、1838年頃にまとめて販売することをもくろむものの買い手がつかず、没後50年を当て込み、バラで売り出してもほとんど売れなかった、という事実が紹介されている。そんな状況では全作品の目録はなかなか作られない。 ■好事家ケッヘル登場 モーツァルトの作品にはバイオリン協奏曲第5番　イ長調　K（KV）．219「トルコ風」、オペラ「フィガロの結婚」K．492、交響曲第41番　ハ長調　K．551「ジュピター」といったように、作品番号の前にKまたはKVというアルファベットが書かれている。これはケッヘル番号といわれるものだ。 Kは「モーツァルト全音楽作品の年代別主題別目録」を出版したルートヴィヒ・フォン・ケッヘルの頭文字だ。ケッヘルはウィーン大法学部を卒業し、オーストリア皇帝の弟、カール大公の子供たちの家庭教師となった。作曲や詩作も行い、植物学者、鉱物学者としても著名だった。才能ある究極のディレッタント（好事家）だった。