大竹伸朗の名言「本人も『わからない部分』が、…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。絵画やグラフィック、インスタレーション、サウンドなどさまざまな手法で常にエネルギッシュな作品を発表し続ける大竹伸朗。作ることに夢中であり続けるために大切なことを彼の言葉から考えます。 【フォトギャラリーを見る】 本人も「わからない部分」が、実は興奮や面白いと思う気持ちと強くつながっている。 絵画や版画、彫刻、映像、音、インスタレーション、巨大な建造物にいたるまで、多彩なメディアを用いた作品を手掛ける大竹伸朗。彼の芸術活動の基盤ともいえるのが、さまざまなモノやイメージを多層的にコラージュしたスクラップだ。雑誌の切り抜きやマッチラベル、LPレコードなどいろんなものを無心にコラージュし、これまでに手掛けたスクラップブックは通算70冊以上にものぼる。 長年スクラップブック制作を続ける中で、大竹は自分の中の興奮が消えかかっていることに気付く。エッセイ集『見えない音、聴こえない絵』に収録された「コラージュ球」でこう綴っている。 「他との比較や検証が始まると徐々に自分のやっていることをいろいろな角度から考え始め、そうこうするうちに興奮要素が消去法で徐々に消えていく。(中略)いつの間にか面白がることよりコンセプトを優先し始め、たいていの場合は失速をきたす。(中略)『興奮』がいつのまにか『つじつま合わせ』にすり替わることはよくあることだ」。 そんな時、初期のスクラップブックを見直した大竹はコンセプトを優先することよりも、貼りたいという欲に対して真っ直ぐなことが大事であると感じる。そして、それこそがアートと関係を結ぶために必要な要素だと続ける。 「『本人もわからない部分が』、実は興奮や面白いと思う気持ちと強くつながっている。(中略)本気でやり続けてどこまで『わからない』でいられるのか、そんな単純なことを初期のスクラップブックを三十年ぶりに見て改めて思った。結局、信じられるのは、今日の新しいページから次の『わからない興奮』が生まれることだ」。 古今東西様々なイメージが貼り付けられた大竹のスクラップブックは混沌としている。年々層の厚みを増していき、一冊の重さが17キロにも及ぶものもあるという。それは無秩序でトリッキーに見えるかもしれない。だが、分厚いスクラップブックの中には、理屈やスタイルなど一貫したものしか認めたがらない社会の圧力を跳ね返そうとする熱いエネルギーがほとばしっている。
おおたけ・しんろう
1955年東京都生まれ。現代美術家。武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業。その後、絵画を中心に音や写真、映像、立体作品など幅広いジャンルの表現を行う。1988年、愛媛県宇和島へ移住。ヴェネツィア・ビエンナーレ、ドクメンタ、瀬戸内国際芸術祭など国際展にも多数出展。
photo_Yuki Sonoyama text_Mariko Uramoto illustration_Yoshifum...