U2が地方のロックグループから世界最高のロックグループへとジャンプアップした傑作『ヨシュア・トゥリー』
OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はU2の6thアルバム『ヨシュア・トゥリー』(‘87)を紹介したい。1976年にアイルランドのダブリンで結成されたU2は、83年リリースの3rdアルバム『WAR(闘)(原題:War )』が全英1位を獲得、キレの良いリズムと表現力の豊かなヴォーカル、そしてメッセージ性の高い歌詞を持ち味に、硬派のロッカーとして活動していた。メンバー全員がパンクに影響されているのだが、アイルランドに拠点を置いていたために、イギリスで同時代に活動していた他のグループとは一線を画すサウンドであった。本作はロックファンなら誰もが知る彼らの代表作であり、ロック史に残る傑作である。本作はそれまでのビートの効いた若々しいサウンドから、自身のルーツを模索しつつ新たな段階へと踏み出そうとした真摯な記録であると言えるかもしれない。 ※本稿は2020年に掲載
アイルランドの地方性
アメリカで生まれたロックンロール、ブルース、カントリー、フォークなどのポピュラー(商業)音楽は、端的に言えばイギリス(アイルランドやスコットランドも含む)からアメリカへ渡った移民が持ち込んだ音楽と、アフリカからアメリカへ奴隷として連れてこられた黒人たちが持ち込んだ音楽が融合して生まれたものである。中でも、フォーク(イギリス移民からの影響が濃い)とブルース(アフリカ移民からの影響が濃い)はアメリカンポピュラー音楽の源流とも言える。 U2を生んだアイルランドではアイリッシュトラッドが連綿と受け継がれている。ポストパンクの文脈で登場したポーグス、有名アーティストとのコラボでアイリッシュトラッドを身近にしたチーフタンズ、アイリッシュトラッドをシンセサイザーと深遠なヴォーカルで表現するエンヤ、アメリカのソウルやR&B風の自作曲を歌いながらもどこかアイリッシュ臭を感じさせるヴァン・モリソンなど、みんなアイルランドの独特の香りを自分の音楽に忍ばせている。日本で言えば、青森県の津軽三味線、沖縄や八重山諸島の民謡などのような癖の強い音楽を想像してもらえばいいかもしれない。アイリッシュ音楽に使われるティン・ホイッスル、バウロン、ブズーキ、ボタンアコーディオンなどは、日本でもよく知られている楽器である。