村上春樹『風の歌を聴け』が描く戦後日本の虚無感 「日本的なるもの」の喪失を描いた透明な文学
■「相対主義」としての人間関係 浜崎:皆さんが褒めるので、僕一人が孤立しそうですが(笑)、……ただ、先に言っておくと、僕の村上春樹評価というのも、藤井先生と同じで、完全に自分自身の「青春」と密着しているものなので、全く客観的な評価とは言えません。 だから、先に公平を期して言っておくと、皆さんがおっしゃるように、春樹の圧倒的な巧さには頷かざるを得ない。ものすごく実験的なのに、おそらく一度読み出すと止まらないはずです。まさに「都市生活者の自意識」をてこにして読者を物語世界にさらっていく力は並じゃない。
ただ、僕がどこに違和感を持っているのかというと、先ほど言われた「相対主義」とも関係しますが、やっぱり、春樹が決定的な場面で「他者」あるいは「葛藤」を回避しているところなんです。
浜崎 洋介 :文芸批評家、京都大学経営管理大学院特定准教授