長野県松本市の銭湯「桜の湯」 疲れ癒やし100年
長野県松本市女鳥羽1の銭湯「桜の湯」は今年、戦前から営業を続けて100年の節目だった。地元の人たちの汗を流し、憩いの場として親しまれてきた。両親から経営を受け継いだ3代目店主の山口敬雄さん(78)は「お客さんの喜ぶ顔に支えられた」と感謝し、今年も大みそかまで営業して「皆さんが一年の疲れを癒やし、良い新年を迎えられますように」と願う。 大正13(1924)年に創業した。敬雄さんの両親、七郎平さんと藤江さんが営み、七郎平さんが戦地へ赴いた戦中も釜の火を絶やさず、藤江さんが子育てをしながら続けた。昭和39年、病に伏した七郎平さんと看病する藤江さんを支えるために姉たちが経営を手伝い、都内で会社勤めをしていた敬雄さんが帰郷して継いだ。 高度成長期のころは家族連れや近所の子供でにぎわった。「温度がぬるいぞと壁をたたいて釜場に知らせる人がいたり、NHKのラジオドラマ『君の名は』や紅白歌合戦の放送時間は客が来なくてがらがらだったり」と古き良き時代を懐かしむ。 創業当時の燃料はおがくずや薪、とっこ(木の根)で石炭も使った。重油も用いたがオイルショックでプロパンガス、都市ガスに切り替えた。しかし、度重なる燃料費高騰が経営を苦しめる。設備の老朽化や経営者の高齢化もあって市内の銭湯は、昭和40年代に40軒以上あったが現在は8軒に。敬雄さんは「井戸水を風呂に使えるから助かるが、燃料費のために働くようなもの。それでもお客さんがいる限り勝手にやめられない」と話す。浴槽と蛇口を増やし、一部建て直してログハウス風に整備した。 毎晩、閉店後に妻・ひろ子さんとたわしでタイルを洗い、施設内を磨く。「清潔感と家庭風呂にない魅力が大事で、お客さんに満足してもらうことが一番」と話す。「『命がある限り続けたい』と話していた母の気持ちが今になってよく分かる。地域に根付いた銭湯であり続けたい」と力を込める。 31日まで営業し、元日は休み。1月2、3、4日は100周年の記念品を数量限定で配る。
市民タイムス