NHK大河「光る君へ」ききょうの「志のために夫を捨てる」覚悟 まひろは石山寺へ…第15回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第15回「おごれる者たち」が14日に放送される。 【写真】平安美人なファーストサマーウイカ 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。 7日に放送された第14回「星落ちてなお」では、ここまで藤原家の権謀の要を担ってきた兼家(段田安則)が出家を決意し後継に長男・道隆(井浦新)を指名。激しく取り乱す次男・道兼(玉置玲央)をよそに、兼家は「道隆は何も知らずともよい。お前はまっさらな道を行け。道兼はこれからも我が家の汚れ仕事を担って兄を支えて参れ」と、道長(柄本佑)も含めた三兄弟にクールに告げる。 同作においてヒールのポジションを一手に引き受けている道兼だが、裏を返せば純粋な男。心酔していた父に「とっとと死ね」と行き場のない感情をぶつけるしかなかった。道兼の表情の変化に毎回引き込まれているので、先日行われた取材会で玉置本人に表情演技について質問してしまったのだが、自分自身でもオンエアを見て「こいつ、こんなに口開くの?」と驚いたらしい。当該インタビューは鋭意執筆中なので、後日掲載します。すごくいい話がいっぱい聞けたのでお楽しみに。 人生の終焉(しゅうえん)に差し掛かっている兼家は「蜻蛉日記」の作者・藤原道綱母こと寧子(財前直見)と最後に心を通わせたのち、星月夜、此岸から彼岸に行くように歩みを進める。生き生きと呪詛(じゅそ)をキメる明子(瀧内公美)、赤く光を放つ月。橋のたもとで事切れる兼家の引きのカット、そして道長の慟哭(どうこく)。この一連の流れがすさまじすぎて圧倒された。体温を失って、なきがらになっていく物理的な重みまで感じさせる段田兼家の演技。「すごいものを見た…」と心震えた。 まひろの周囲にも動きが。伊周(三浦翔平)の妻探しの和歌の会で再会した、ききょう(ファーストサマーウイカ)がまひろのもとを来訪。宮中に女房として出仕する決意を告げる。「私は私の志のために、夫を捨てようと思いますの」。「私は私のために生きたいのです。広く世の中を知り、己のために生きることが、他の人の役にも立つような、そんな道を見つけたいのです」。コミカルな劇伴音楽でいくぶん和らいでいるけど、ブルドーザーのように自分の道を突き進む、ききょうの志がにじむせりふに正面から食らってしまった。 「枕草子」で女性のキャリアについて清少納言が記した「生ひ先なく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、いぶせくあなづらはしく思ひやられて」が三次元に具現化されたようなききょうの所信表明。その志を持って宮中に上がったききょうが今後仕えることになる定子(高畑充希)との相乗効果が楽しみだ。 まひろの志は「民に文字を教え、読み書きができる人」を増やすこと。しかしながら、文字を教えた庶民の娘・たね(竹澤咲子)の父・たつじ(平田理)から「この子は一生畑を耕して死ぬんだ。文字なんて要らねえ」と突き放される。「耕して生きる」ではなく「耕して死ぬ」。第1回でまひろが為時から無邪気にかけられた「おまえが男子(おのこ)であれば」のさらに上を(下を?)行く、呪いのような大人の無理解。まひろにとっては「文字」は「世界」を知る手段。筆者はかねて「光る君へ」の裏テーマは“呪いを解く物語”であると主張しているので、今後のまひろ先生の覚醒パートに期待したい。 第15回では、さらに拍車がかかった道隆の独裁が描かれていく。麗しく成長した一条天皇(塩野瑛久)も初見参。このあたりの史実を知りながら見ると、道隆や伊周の一挙手一投足に伏線がめちゃくちゃ張られていることが分かって興味深い。 まひろは、心許せる友人・さわ(野村麻純)と近江の石山寺へ参詣に訪れ、思いもかけない人物と出会う。個人的にはこの人物との遭遇はめちゃくちゃテンションアップ。平安の世にタイムスリップできるなら同席させてほしかったぐらいだ。 兼家の死を機に、藤原家の運命はさらに動き出す。今は「ジェンガ」のように危うい骨組みのもとに政の頂点が積み上がっている状態。そのグラグラした重なりがいつ瓦解するか…。目が離せない。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社