ノーベル平和賞受賞団体、日本被団協が直面する冷酷な現実【東京支局長コラム】
10月25日午後、東京にある古い建物の9階、ある事務室の鉄製ドアには「戦争はいけない。憲法9条を守ろう」というポスターが貼ってあった。狭い事務室は、山のように積まれた本と資料のせいで、取材に来た韓国人記者が入る空間すらないように見えた。70代とおぼしき日本人がやって来て「あまりに狭くて申し訳ない」と言いつつ、急な階段の先にある屋根裏部屋に案内した。
ここは、10月11日に今年のノーベル平和賞受賞者に選ばれた「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」の事務室だ。被団協は、太平洋戦争末期の1945年に広島と長崎に投下された原爆の被害者らが、56年に結成した組織だ。 ノーベル平和賞受賞の浮き浮きした雰囲気はなかった。屋根裏部屋で対面した濵中紀子(はまなか・としこ)事務局次長(80)は「率直に言って、10年後も被団協が存在できるかどうか心配」とし「現在47都道府県の地方組織のうち、11県の組織が解散もしくは休止状態」と語った。今後2-3年中に解散する支部はさらに増えるだろう、という。 被団協は、遠からずして組織が消えるかもしれないという冷酷な現実に直面している状態だった。原因は、被爆者の高齢化。20年前の時点で26万人を超えていた被爆者は、今や10万6000人ほどに減った。生存被爆者の平均年齢は85歳で、日本の平均寿命だった81歳を超えて既に久しい。被団協は、各支部の会員数すら把握できていないありさまだ。組織を運営する資金も足りないという。被爆者らが出す会費を上部組織に回せない事態になっているからだ。一回性のノーベル平和賞の賞金1100万クローナ(現在のレートで約1億5800万円)で解決できる状況ではない。日本政府も、「憲法改正反対」と「日本の核兵器禁止条約加入」を主張する被団協にはあまり良い視線を送らない。 1歳のときに被爆した濵中さんは「被爆2世が加入すればうれしいが、もうすぐ50代のわたしの娘も被団協の活動はしないようだ」と語った。日本では依然として「被爆者」が差別の対象なので、「被爆2世」「被爆3世」であることを誰もあえて明らかにしようとはしないのだ。最近、埼玉県で被爆者の子孫が破談の危機に直面する事件もあったという。結婚を前に「被爆者の子孫」だという事実を知った相手の身内が「だまされた」と問題にした。 ノーベル平和賞が、日本でも立場を失いつつある被団協を救うことはできるのだろうか。自民党は憲法9条の改正を推進しており、石破茂首相は核共有論を主張している。しかも日本は、核兵器禁止条約(TPNW)を批准していない。 こうした国際政治の現実の中で、被団協の今回の受賞はいろいろと考えさせる。歴史は繰り返すという事実を忘れる愚かな人間に、果たして今回のノーベル平和賞は警告となり得るだろうか。 成好哲(ソン・ホチョル)東京支局長