日本製鉄なぜこんなに嫌われる?USスチール、大統領候補まで「買収阻止」宣言 フェーズは企業間では手の届かないレベルか
■CFIUSの懸念と反対理由とは
ところが、ここでCFIUSが反対の姿勢を示してきた。理由は大きく2つだ。かつて日本製鉄は、鋼材をアメリカに輸出する際に、アメリカ政府に対して保護貿易をなくすように訴えた過去がある。上阪氏は「アメリカからすれば、そんなことを言う日本製鉄は信用できない。日本製鉄が自由貿易を推進して、アメリカの産業を破壊するんじゃないかと懸念している」とした。さらにもう1点は、「USスチールが非常に衰退している企業で、日本製鉄が自分たちのものにしても投資せず、むしろ成長しているインドに技術や生産設備を持っていくのでは、ということも懸念している」という。 それでも日本製鉄は、約2兆円という巨額の買収額に加えて、追加投資についても検討しているという。「むしろ1800億円以上、さらに投資を進めると言っているし、雇用はちゃんと維持、待遇改善も進め、リストラもしないと明言している。鉄を作る高炉も新しくリフレッシュして、生産効率の悪いものから利益が出るものに改修するし、製鉄機械についても投資する。USスチールの価格競争力を取り戻すと従業員にも説明しているので、USスチールの経営陣もこれに賛同しているのでウィン・ウィンなはずだ」と述べた。
■USスチール買収に大統領選がなぜ絡む?
ここで引っかかってきたのが、トランプ氏とハリス氏が激戦を繰り広げる大統領選だ。労働者票は、総裁選の行方を大きく左右する。買収に反対することで「アメリカを守る、労働者を守るというメッセージを発すれば、やはり労働者としては投票したくなる。経済合理性は置いておいて、心理的に自分たちを守ってくれる大統領に票を入れたいという心境があるのでは」と分析した。また国際政治学者の前島和弘氏も「労働者票というのは、(USスチールがある)ペンシルバニアだけじゃなくて、ミシガンやウィスコンシンでも、何かニュースに共鳴する。『俺たちを守ってくれるんだ』というのは大きい」とした。 では、11月5日の大統領選が終われば、風向きが変わるのか。この考えに前嶋氏は否定的だ。「大統領選で終わるのかという問題がある。大統領選に向けてこれだけ言ってしまったので」。仮にどちらかが大統領に選ばれた後、前言撤回しようものなら、敗れた候補側から猛烈な指摘を受けるのは明らかだ。日本製鉄の副社長には、アメリカの国務長官を務めたことがあるポンペオ氏がいるが、今回の買収劇の仲裁役として機能するかは未知数だ。