苦しそうな父、救急車が来るまでにできることはある?焦る作者を夫が落ち着いてサポート/父が全裸で倒れてた。#3【作者に聞く】
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をわかりやすくコミカルな漫画で描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。なかでも、母親の自宅介護と看取りがテーマのコミックエッセイ「20代、親を看取る。」では、自宅介護の現実や、“親との死別”と向き合う中で複雑に揺れ動く感情が描かれており、同じ経験がある人や親の老いを感じ始めている同世代などから大きな反響を集め、2023年に書籍化された。 【漫画】本編を読む コミックエッセイ「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、あの時とは違い、一人っ子として頼れる家族がいない中で様々な決断を迫られることになるキクチさん。いつかは誰もが直面する“親の老いと死”についてお届けする。 今回は、苦しそうな父を心配しながら救急車が来るまでに何かできることはないかとキクチさんが奮闘する様子が描かれる。 ■焦りと不安を感じるキクチさんに安心を与えてくれた夫 119番に電話し、聞かれた通りに父の状態を伝えていく。救急隊員とのやり取りや携帯電話の着信拒否設定が解除されるなど、実際に体験した人にしかわからない情報が細かく描写されている。 「救急隊の方との電話の中で『いまでも便は出ているか、全身はどんな状態か』と問われました。私は緊急事態とは言え、ふとんをめくりあげて父の全裸の下半身を見る勇気がありませんでした。なのでわかりませんと答えました。母のときもそうでしたが、老いた親の下半身や性器を見るのは、私には結構メンタルのダメージがあるんです。確認すべきだったかなと思いつつ、いま考えてもやっぱり無理かもと思っています」 普段ならあっという間に感じられる時間も、救急車を待っている状況では長く感じられるものだろう。なんとか心を落ち着かせようとしながらも、平常心を保てないでいるキクチさんの様子がリアルだ。 「救急車を待っている間は父にずっと声をかけていました。『もうすぐ来るからね』と言って励ましながら『“もうすぐ”って言ってから10分も経っちゃったんだけど!?』と心の中で自分にツッコんでいました。焦りはありつつもどこか冷静で、夫に『玄関前にいて救急隊の人が来たら案内して』と指示していました。救急車が来てくれるという安心感で、少しずつ心が落ち着いたのかもしれません」 そんななか、どっしりと構えて要所要所で的確なサポートをしてくれた夫の存在は心強かったのではないだろうか。 「夫は父がすぐに戻ってくることを信じていて、だからこそ『掃除をする』という選択肢を取ってくれました。一方の私はそれどころじゃないし、この状況に絶望していて『すぐ戻る』なんて想像もつきませんでした。だからこそ、夫の示した行動のおかげで『そうだよね、きっとすぐ戻れるよね!』と少しポジティブになれました。普段はほわほわと不思議なオーラをまとった夫なのですが、毎回、ピンチのときの夫の行動力には頭が上がりません」 タイトルの通り全裸で倒れている父を発見することとなった、「父が全裸で倒れてた」。つらい状況も淡々と、時にクスリと笑える場面を挟みながら描くキクチさんの漫画を、今後も楽しみにしてほしい。