航空券を拾うより幸運だったことは… 「拾われた男」松尾諭さんが語った人生哲学 そして「後輩」へのエール
自動販売機の下に落ちていた航空券を拾ったら、役者人生の道が開けた-。そんな波瀾万丈の歩みをつづった自伝風エッセー「拾われた男」が連続ドラマにもなった兵庫県尼崎市出身の俳優松尾諭さん(48)が9日、母校の西宮南高校(西宮市高須町2)の創立50周年記念式典で講演した。「『拾われた男』が拾ったもの」と題して、人生哲学を軽妙に語り、在校生や保護者、同窓生ら集まった約千人を沸かせた。(金海隆至) 【写真】「好きなカメは何ですか?」「ゼニガメ」 鳴尾浜に面した同校は1975年に創立。西日本最大規模の住戸数を誇る武庫川団地(愛称・レインボータウン)に隣接し、高須地区の発展とともに歴史を刻んできた。卒業生は1万4500人を超える。式典は、教員らでつくる実行委員会が西宮市民会館(同市六湛寺町)で開いた。 松尾さんにとって、同会館は俳優を志す原点となった場所。高校2年の秋、学校の文化鑑賞行事で見た演劇「青春デンデケデケデケ」のステージに目がくぎ付けになった。「カーテンコールで拍手を受ける役者さんたちがきらきらと輝いて見え、『これや!』と。僕もあそこに立ちたいと思った」と当時の感動を振り返った。 関西学院大学を中退後、24歳で一念発起して上京。ある朝、アパートの前で、自販機の下に航空券が1枚入った封筒を見つけた。交番に届けたところ、数日後、落とし主から「お礼がしたい」と連絡があった。待ち合わせ先に現れた女性こそが芸能事務所の社長(現会長)で、思いがけず入所を誘われた。 逸話を知った人からは「すごい幸運」と驚かれる。だが松尾さんは「運だけ、と誤解しないでほしい」とも。「じゃあ、あなたたちは下を見て歩きますか、落ちているものを拾いますか、拾得物を届け出て『お礼を望む』に丸をしますかと言いたい。これは僕の才能」とちゃめっ気たっぷりに話し、「本当にラッキーだったのは、高校時代にこの市民会館でやりたいことを見つけたこと」と力を込めた。 落ちているものを拾うことは、世界を広げることにもつながるという。「例えば映画や音楽。メディアが薦めるような作品だけを鑑賞していても何も広がらない。身の回りに落ちているものってたくさんある。何か落ちてないかと思うこと。落ちていたらまず拾ってみる。それが一番、大事なんじゃないか」と語った。 終盤にはマイクを手に客席へと降り、約700人の在校生に質問を募った。演劇部部長の女子生徒(16)から「演技がうまくなるにはどうすれば?」と尋ねられた際は、「僕は演技がうまいってよく分からなくて。うまい芝居よりいい芝居の方が好き。いい芝居をするために、自分を豊かに育てて」とアドバイスした。 在学時代、ラグビー部で活動した松尾さん。壇上での締めくくりには同級生のキャプテンで、式典の実行委員長を務めた西宮甲山高校教諭の中井健二さん(49)から「これからもしっかり応援したい。楽しい時間をありがとう」と謝意を伝えられ、照れくさそうな笑顔を見せた。 ◇ 講演後は、西宮南高校吹奏楽部OBらで結成したサウスウィンド吹奏楽団が演奏。西宮市出身のシンガー・ソングライター、あいみょんさんの曲などを現役部員と披露した。 吉野浩司校長(61)は式辞で「本校で学ぶ生徒たちがレインボータウンの彩りのようにさまざまな色で輝き、良い人生を生きることができると信じている。将来に学ぶ子どもたちにも幸あれと願う」と述べた。