無戸籍で生きる「市子」の半生から見える、“存在しない”ことにされてきた人々の境遇と法律の不完全さ
無戸籍の人は現実に存在する
市子の境遇は実に壮絶で、フィクションの映画の主人公の設定として印象的なものなのかもしれません。しかし、市子と同じ「無戸籍の人」の人生に迫ったノンフィクション『無戸籍の日本人』(井戸まさえ著 集英社文庫)を読むと、無戸籍の当事者たち、ひとりひとりの人生が、今まで見てきたどの映画の主人公よりも複雑で入り組んだバックグラウンドなのです。 そこには、運命に翻弄される数奇な人生が書き綴られています。ある青年は、母親だと思っていた女性から、「自分は養母だ」と告げられました。本当の母親が誰かを知る前に、養母と名乗った女性が死去。さらに、自分が無戸籍であることも発覚。彼は「自分は何者なのか? 」という問いを抱えることになります。彼の言葉で印象的なものがあります。 「僕にとってはミステリー以上です。最後に種明かしがないから……」(p41) 彼の人生の答え合わせはフィクションのようにはやってきません。
文・構成/ヒオカ