「働き方改革」でも、サービス残業は減っていない?
「働き方改革」は今や国策となり、とりわけ長時間労働の是正が叫ばれています。長時間労働は非効率の代名詞的存在となり、サービスを強いる会社はブラック企業のレッテルを貼られ、コーポレートブランドの失墜に直面するようになりました。こうした企業は、新卒の採用はもちろん転職市場において大きな不利を被ります。人手不足解消が重要な経営課題となるなか、労働者を確保できないことは死活問題に発展することすらあります。 しかしながら、現実に目を向けるとサービス残業は減っていない可能性があります。当社、第一生命経済研究所の推計によると2017年の一人あたりサービス残業時間は年間195.7時間と、2016年のそれから概ね横ばいでした。当社が推計したサービス残業は2010年頃からすう勢的に減少してきましたが、皮肉なことに、働き方改革が推し進められた2016年は前年から増加、17年は横ばいと減少が一服しています。
長時間労働は是正されても、サービス残業は減っていない
ここで当社がどういった方法でサービス残業を推計したか説明を加えておきます。まず、推計に用いた統計は2つ。1つは厚生労働省が公表している「毎月勤労統計」。この統計は賃金動向を把握するための指標で企業が実際に支払った賃金を集計します(調査回答者は企業)。支給した賃金のほかに、支払い対象となった労働時間も集計されますので、この統計からは企業側からみた労働時間とそれに対応する賃金(残業代)が把握できます。 もうひとつは総務省が公表している「労働力調査」。この統計は失業率などを把握するのが主目的の指標で調査回答者は個人(≒労働者)です。調査項目には「労働時間」があり、調査回答者は自らの記憶・記録に基づき、実際に自分が働いた労働時間を申告すると考えられます。 この2つの統計から入手した労働時間を集計することでサービス残業を大まかに把握することができます。労働者が申告した労働時間と、企業が賃金の支払い対象とした労働時間の差分は「サービス残業」に近い概念になるはずだからです。