小林製薬「紅麹問題」結局、何がマズかったのか? 「添加物の神様」と言われた食品製造のプロが「3つの事故原因の可能性」と「根本原因」を解説
酒をつくる酵母のために、米をブドウ糖に変えるのです。 ところが、麹菌は「生き物(微生物)」です。生き物である以上、「変質のリスク」は避けられません。 一歩間違えば、どんな雑菌が繁殖してしまうか、どんな変質が起こるかわかりません。「有用の微生物」と「病原性の微生物」は分類学上、近縁であることが多いからです。 「自然界においては1万分の1の確率で微生物の変異が起こる」という論文も出ています。 現に、今回の事故の原因として、青カビから発生することがある「プベルル酸」という物質が想定外に産生されたのではないかと疑われています。その他の未知成分も確認されているようです。
これが、どの段階で発生したのかなど詳しいことは、今はわかっていませんが、こういうことが「起こりうる」のが麹、発酵食品の世界なのです。 過去には、実際にこういうことが起こっています。 2003年、食品添加物として認められていた「コウジ酸」に「肝臓がんを発症させる疑いがある」と食品安全委員会が発表し、禁止されたのです(化粧品については再テストの結果、使用可能となっています)。覚えている方もいらっしゃるでしょう。
「コウジ酸」とは、麹を培養して作られる酸化防止(変色防止)の効果を持った物質です。 これも、最初は「麹菌が作り出すものだから安全」といわれていたものです。 ■「麹の品質管理」は命がけ 長年、発酵食品の開発に取り組んできた私には、「麹の管理」の難しさが嫌というほどわかっています。 食品加工において、味噌や醤油メーカーが麹を自社培養するところもありますが、一般的には麹菌(種麹)の供給会社、通称「麹屋」から買います。
私は麹屋さんとも交流があるのでよく知っているのですが、まあ「品質管理の厳しさ」といったら大変なものです。 まず、「種麹」を育てる部屋は限られた人物しか入れません。家族も入れない。品質管理のため、「異種のカビ」に汚染されないためです。また、どこも独自のノウハウがあるから、機密事項でもあるわけです。 この管理がちょっとでも甘いと、もうすぐに味が違ってしまいます。 「昨年と違う」といわれたら信用問題にかかわりますから、品質保全にはどの麹屋さんも必死です。