期待の重さを越えてゆけ!ドラフトを騒がせた男たちの今
複数球団の入札競合や、あふれる期待を受けての1位指名。ドラフトは指名される選手にとって、栄誉であると同時に、ときに重過ぎる看板を背負わせるものでもある。ここでは、ドラフトで話題を呼び、その期待の重さを越えていこうと奮闘中の6選手の今を追う。勝負はこれから。いつまでも「ドラフトで話題になったあの選手」とは言わせない――。 当時最速156キロを誇り、『アマチュアNo.1右腕』と称された。その評価に値する5球団競合(ソフトバンクのほか、ロッテ、巨人、日本ハム、広島)。見事にクジを引き当てた工藤公康監督は「若い投手たちとともに、将来のホークスを背負ってほしいと思います」と大きな期待をかけた。だが……。 2016年秋のドラフト会議から3年が経過した19年のオフ、田中正義は「丸3年、まったく結果が出ていない。ドラフト1位じゃなければ、もしかしたら(戦力外だった)というのは正直感じている」と、自分の立場を俯瞰(ふかん)し、胸の内を吐露した。ルーキーイヤーは右肩の負傷などもあり一軍デビューはおろか、二軍でも1試合のみ。2年目こそ10試合に登板したが、一軍に定着することはできなかった。昨季も一軍登板は1試合のみ。期待を裏切ったとも言える結果に、もどかしさや情けなさが残った。 いまもなお、力強い直球が最大の武器であることは変わらない。その上で、技術面以上に課題となっているのが精神面と自己分析する。苦しい現状を打破するため、19年オフはプエルトリコでのウインター・リーグに参加した。3度の先発を含む6試合に登板して2勝1敗、防御率1.80の好成績とともに、気持ちの部分でも変化が。外国人選手がガツガツとアピールする姿に、「周りの目を気にしないことも大事」。年が明けて1月の自主トレでは「これだけやってもダメならしょうがないと思えるくらい追い込んだ」と、体幹強化などハードトレーニングで自らをいじめ抜き、今後に向けて新しい自分を築き上げていく予定だった。 しかし、春季キャンプ序盤に右ヒジの張りで離脱し出遅れると、その後もなかなか投げられない日々が続いた。リハビリとトレーニングを繰り返して、ようやく実戦復帰までこぎつけたのが10月下旬。そこで、投じたボールに力強さが戻っていたことは、田中自身にとって気持ちの面でも大きかったはずだ。 11月1日の阪神とのウエスタン・リーグ最終戦(タマスタ筑後)では自己最速タイの156キロ。同7日のファーム日本選手権(ひなたサンマリンスタジアム宮崎)でも最速153キロを記録している。投球内容自体も1イニングを1安打1奪三振できっちり無失点に。「かなり手応えのあるボールも増えているので、来年につながることは間違いないと思っています」と、復調への確かな兆しを感じている。 苦しんだ4年間を経て、肉体も精神も「強くなっているのは間違いない」と語る。あとは一軍で通用するかどうか。来季、まずは一軍復帰。そして、一軍で居場所をつかみ、プロ初勝利も。時間がかかった分、ここからは確実に一歩ずつ前に進んでいく。もう後戻りはしない。 PROFILE 創価高-創価大-ソフトバンク17(1) 【一軍通算成績】11試合、0勝1敗0S0H、防御率8.16 【2020ファーム成績】4試合、0勝0敗0S、防御率0.00 文字どおり「人生が変わった」のが2015年、夏の甲子園だった。関東一高(東東京)の・・・
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週刊ベースボール