<島から挑む・’22センバツ大島>第1部/下 感謝し楽しむ真剣勝負 /鹿児島
鹿児島市から南西に約380キロ離れた奄美大島。大島(鹿児島県奄美市)の遠征は飛行機やフェリーが移動手段だ。離島ゆえ対外試合で経験を積む機会が限られるのが悩みだが、発想を転換し、周囲の支えを得て成長を続けている。 「打て!」。週末ごとに開かれる紅白戦。攻守に分かれ真剣なまなざしで向き合う選手たちの姿に、ベンチからの声援に熱が入る。審判が入り、グラウンドは公式戦さながらの緊張感に包まれる。紅白戦を、調整ではなく実戦と捉えているのだ。塗木哲哉監督は「紅白戦のデータは全てマネジャーが記録する。ベンチ入りの基準になるので真剣勝負そのもの」と話す。打点よりも出塁率を重視し、三振などのデータも一目瞭然だ。 野球部OBも精神面と技術面で現役選手を支える。正月恒例のOB戦は、島外から大学野球部の現役選手が帰省を兼ねて駆け付ける。新型コロナウイルスの影響で今年は2年ぶりの開催。2014年の21世紀枠でのセンバツ初出場メンバー3人も参加し、後輩たちに胸を貸した。元主将の重原龍成さん(25)は「食い下がる現役の力に驚いた。波に乗ればきっと勝ち上がれる」とみる。 日常的に指導に当たるOBもいる。守備練習でノックを打つのは、当時のメンバーで左翼手だった泊慶悟さん(25)。2年前、奄美市職員に採用され東京から島に戻った。あいさつに訪ねた塗木監督に「今度はユニホームを着ておいで」と誘われコーチ陣に加わった。「甲子園はすり鉢状に観客席に囲まれている。つい見上げてあごが上がり、スイングがだめになる」など失敗談を含めて助言。塗木監督は「選手と年が近く、相談しやすい『いい兄貴』としてチームを支えてくれている」と信頼を寄せる。 野球部のスローガンは「Enjoying Baseball(エンジョイング・ベースボール)」。勝っている時もピンチの時も「野球を楽しむ」という意味だ。昨秋の鹿児島県大会は6試合のうち4試合でサヨナラ勝ちし、初優勝。九州地区大会は各県の強豪相手に粘り強く戦い、準優勝した。決勝で九国大付(北九州市)に敗れたが、武田涼雅主将(2年)は「悔しかったけれど、楽しかった」と笑みを見せた。センバツ出場に「島の人たちの熱い応援に感謝の気持ちでいっぱい。甲子園で全力プレーを見せたい」と話す。 ゲームセットの瞬間まで野球を楽しむことを忘れない選手たちが、夢の舞台へ挑む。【白川徹】