<甲子園交流試合・2020センバツ32校>花咲徳栄3-1大分商 快投・花咲徳栄、声の力 響く激励、エース点火
◇第1日(10日・阪神甲子園球場) 花咲徳栄が逃げ切った。一回に敵失と連続四球で1死満塁とし、中井の押し出し死球と渡壁の右前2点適時打で3点を先取。先発の高森は制球が良く、1失点で完投した。大分商は六回に単打2本で2死一、三塁とし敵失の間に1点を返したが、続く好機を生かせず、尻上がりに調子を上げた川瀬を援護できなかった。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら <花咲徳栄3-1大分商> 新型コロナウイルス感染拡大の影響で春夏の甲子園大会が中止となる中、実現にこぎつけた交流試合。優勝チームがいない異例の「甲子園」の意義を測りかねていた人も多いはず。だが、そんなもやもやを花咲徳栄の左腕・高森が1失点完投の快投で吹き飛ばした。 一回表、まっさらな甲子園のマウンドに立った時、高森は違和感を覚えたという。昨夏の甲子園出場時と違い、観客もいなければ歓声もない。ただ、以前は耳に届かなかった味方ベンチの声が聞こえ、「それを活力にできた」。 気力が充実し、立ち上がりから右打者の外角への制球がさえた。先頭・渡辺温への初球は、外に逃げるツーシームでファウルを誘い、ほぼ同じコースに直球を投げ込んだ。最後は再び外へのツーシームで見逃し三振。これでリズムに乗ると、一回は3者連続三振と最高のスタートを切った。 味方のミスで1点を失った直後の六回2死二、三塁では、捕手の中井が「今まで受けてきた中で一番」とたたえた内角低めへのスライダーで空振り三振。そのまま最後まで突っ走った。 花咲徳栄は校内で新型コロナウイルス感染者が出たため、7月23日から月末まで臨時休校になった。さらに埼玉独自大会の初戦は8月12日と、練習不足に今季公式戦初登板という二重の不利もはねのけた。高森は「センバツが中止になった時は落ち込んだ」と振り返るが、交流試合の開催が決まり、開幕試合で投げることになると「歴史に残る試合で良い投球をして、花咲徳栄の名をたくさんの人に知ってもらおう」と心に決めた。そんな思いをかなえる、126球だった。【岸本悠】 ◇快音、継続の成果 渡壁(わたかべ)幸祐左翼手(花咲徳栄・3年) 歓声のない甲子園に快音を響かせた打球が右前に抜けた。一回に1点を先取し、なお1死満塁。花咲徳栄の6番・渡壁は鮮やかな流し打ちで2者を還し、「流れをつかめた」と喜んだ。 1ボール2ストライクからの4球目。大分商の好右腕・川瀬が投じた外角いっぱいの141キロ直球に、しっかり踏み込んで対応した。バットをかぶせるようにして高めの球をミート。「つなぐ気持ちで食らいついた」と強調したが、鍛錬に裏打ちされた一打だった。 好きな言葉は「継続」。元々は追い込まれてからの打撃は苦手だった。昨秋以降、不利なカウントを想定して打撃練習に取り組み続けた。心掛けたのは「球を長く見て右足の前でとらえること」。自身初の甲子園で成果を発揮した。 兵庫県尼崎市出身。花咲徳栄が全国選手権で初優勝した2017年当時は中学3年で、ボーイズリーグのチームメートとともに甲子園で決勝を観戦した。「見ていた所がプレーできる場に変わってうれしかった」。1試合限りの舞台でも得たものは大きかった。【野村和史】 ◇粘投・大分商の真骨頂 120球目のベストボール 川瀬堅斗投手(大分商・3年) 大分商・川瀬にとって、120球目がベストボールだった。六回2死二塁、3球で花咲徳栄の1番・南を追い込むと、「普段から川瀬が投げたい球を投げさせている」という捕手・末田の出したサインは直球だった。もちろん、川瀬の思いも同じ。外角低めに構えたミットに142キロの直球を投げ込み見逃し三振を奪うと、きつくこぶしを握りしめた。 立ち上がりは甲子園独特の雰囲気に戸惑い、四死球を連発し3点を奪われた。しかし、二回以降は変化球から直球中心に変更し、徐々に調子を立て直した。「どんどん球が重くなっていった」と末田。毎回走者を背負いながらも本塁は踏ませず、149球の粘投と真骨頂の投球を見せた。 最速148キロの本格右腕としてプロも注目する。新型コロナウイルスの影響で野球ができない期間は走り込みや体幹トレーニングに費やし、球のキレも増した。兄でプロ野球・ソフトバンクの川瀬晃からは前日、スマートフォンに「悔いがないよう頑張って」とメッセージが届いていた。 初めての甲子園に「プレーができた喜びはあるが、やっぱり勝ちたかった」と悔しさをにじませたが、最初で最後の舞台を「この経験と悔しさを今後の人生に生かしたい」と締めくくった。【尾形有菜】 ……………………………………………………………………………………………………… △午前10時4分開始 大分商(大分) 000001000=1 30000000×=3 花咲徳栄(埼玉)