ミケーレはミケーレのまま 洋服が祖業の「ヴァレンティノ」のスタイルに着想し、装飾主義全開
「グッチ」ではブランドのモチーフ
「ヴァレンティノ」ではスタイルを融合
「グッチ」との違いは、メゾンコード、ブランドのアイデンティティの表現方法にある。振り返れば「グッチ」では、緑・赤・緑のウェブストライプや、GGのイニシャル、そしてロゴなど、モチーフを取り込むことで「グッチ」らしさを表したが、「ヴァレンティノ」ではハンドバッグに小さくあしらったVのロゴを除き、こうしたアイコニックなシンボルには頼らない。代わりにミケーレは、創業者ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)の1960~80年代前半までのスタイル全般にインスピレーションを得たという。例えば、上述した波打つフリルのつけ襟は、ガラヴァーニが1980年初頭に発表したドレスのネックラインのよう。ドレスからブラウスまで繰り返し現れるパフスリーブやペプラムを加えてフレアに仕上げた袖口などは、60年代後半に度々現れたディテールのようだ。実際ミケーレは大きな帽子と、そこに加えたクジャクの羽は、ガラヴァーニの往年のクリエイションをモダンにアレンジしたものと話す。「つばの広い帽子に驚いた人もいるかもしれないが、(創業者)ヴァレンティノの帽子は、もっともっと大きかったんだ(笑)」とミケーレは話す。
ミケーレは、「グッチ」でトップを務めた7年の間で売上高を3倍近くまで伸ばしたものの、コロナ禍以降、経済の停滞が続く中国市場で減速。これを受け、よりシンプルなクリエイションを求めたブランドとの目指す方向性の違いから退任した、と言われている。そんな彼が、退任からわずか2年足らずでカムバックし、変わらないどころかパワーアップしたかのように思えるクリエイションを発表したことについては、否定的な意見も存在する。ただ創業者ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、1957年に会社を設立して、2007年に勇退するまでの間、オートクチュールとプレタポルテで、あらゆる美に刺激を受け、時代も地域も超越した洋服を生み出し続けてきた人物。今改めて考えれば、ミケーレのクリエイションは、トランクなどのラゲージを祖業とする「グッチ」よりも、50年もの間洋服を生み出し続けた「ヴァレンティノ」の方がフィットするのかもしれない。
良くも悪くもミケーレはミケーレのままだったが、「グッチ」よりも自身のクリエイションに共鳴しそうな「ヴァレンティノ」で、思いっきり羽を伸ばしたクリエイションに期待したい。彼の次なる試金石であり、彼自身すでに「時間が足りないくらい」と話して楽しみにしているだろうビッグイベントは、1月に発表するであろうオートクチュール・コレクションだ。