『ブギウギ』趣里×水上恒司だから成立する“痛いカップル” 足立紳が描く“純愛”の面白さ
いよいよ恋愛パートがはじまった。 戦争が激化し、東京で公演活動ができなくなったスズ子(趣里)は楽団を引き連れて地方営業に出る。羽鳥(草彅剛)が作ってくれた「アイレ可愛や」を携えて。この歌は、思想の欠片もない、のどかで牧歌的な歌で、観客も手拍子をたたき楽しんだ。 【写真】スタイルのよさが際立つ水上恒司のインタビュー撮り下ろしカット 巡業先に現れた大学生・村山愛助(水上恒司)はスズ子の大ファン。やや挙動不審なところがあるが、スズ子は彼に六郎(黒崎煌代)の面影を見る。独自な言動のなかに滲む純粋性をスズ子は見逃さなかったのだ。出身が大阪同士であることからふたりはよけいに打ち解ける。 愛助は、何通もスズ子に手紙を書いたり、下宿に訪ねてきたり、大阪のはな湯にも行ったりと、今でいう積極的な“推し活”を行う。少し間違えればストーカー行為にもなりかねないが、彼は大阪の大手興業会社・村山興業の御曹司。素性が確かで、安心である。いや、逆に、御曹司であることが、スズ子との関係の進展を阻むことになる。 恋愛には枷がなくてはならない。 スズ子と愛助の間の枷は、9歳の年齢差(サブタイトルは「ワテより十も下や」)、家柄、そして戦争。3つも枷があって、恋は燃えざるを得ない。そして、反対する者ばかり。小夜(富田望生)、五木(村上新悟)、村山興業東京支店長・坂口(黒田有)が入れ代わり立ち代わり、口うるさく、ふたりの恋の芽を摘もうとする。 第10週までの物語の進行は、概ね面白く観ることができた。毎週のように心を大きく揺さぶる楽曲が出てきて、わくわくした。そして前半のクライマックス直前、朝ドラには欠かせないとされる恋愛パートのはじまり。爽やか生真面目青年役が似合う水上恒司の登場に「待ってました!」と前のめりだった。が、今週はまだ盛り上がらない。それは、スズ子がかなり受け身であるからだ。 松永(新納慎也)のときはかなりはしゃいでいたのに、今回は思慮深い。まあ、松永で痛い目に合っているからともいえるだろう。 告白されたのがはじめて、とはにかんでいるということは、松永以降、何年ものあいだ、まったく恋がなかったということか。別にそれでも構わない。仕事に夢中で恋どころではなかったとか、松永以降恋に臆病になったとか、そういう主人公の内面の機微をもう少し書いてほしいような気もしたが、福来スズ子はただただ純粋で清廉潔白な人物である。 周囲が勝手に、福来スズ子は手練れの歌手で、歳下の御曹司をたぶらかし利用しようとしている悪女的に想像しているだけという、まるで、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の政子(小池栄子)や『どうする家康』の瀬名(有村架純)のような描写になっているように見える。今までの見方と違う角度で見る、それが昨今の史実を扱ったドラマのトレンド。 小夜から見たら、愛助のほうこそ、スズ子を騙して、手籠めにしようとしている悪者である。誰もの目が曇っているなか、スズ子と愛助だけは、お互いの本質に気づいているーーそれが恋ということなのだろう。 あまりに、ふたりが清潔過ぎて、ややこそばゆい。スズ子のモデル・笠置シヅ子の自伝などを読むと、当然、赤裸々には描いていないが、そこまで純粋な感じでもなく、極自然な恋愛欲求で進展していたように感じる。足立紳のこれまで描いてきた作品は男も女もノイズだらけなので、スズ子と愛助をこういうふうにきれいに思慮深く描くのが意外な感じもした。 その分、はな湯の、アホのおっちゃん(岡部たかし)とアサ(楠見薫)が三つ巴の熾烈で見苦しい恋愛バトルのすえ、結ばれたというエピソードや、小夜が過去、男たちに痛い目に遭っていると語るところなどで、ノイズをまぶす。まわりに雑味があればあるほど、スズ子たちの純愛が際立っていく。 脚本家の足立紳に取材をしたとき、愛助を「かなりのぼんくらにしたかったのですが、主人公が惚れる人物なので、格好良くというか、こういうところが好きになっていったんだな、というようなことがわかる描き方はしています。基本的には、登場から少しダメな部分が目立つというタイプの人ではあります」と語っていた。そして、スズ子は、ダメな男性を支えるしっかり者として描かれるかと思いきや、「いや、支えるというか、どっちかというと、ヒロイン自身もあえて恋愛に慣れてない感じで描いてきたので。なんかこう、やや痛いカップルに見えてもいいんじゃないかな、と思って(笑)」だそうで。(※) 確かに、愛助はややストーカーふうだし、スズ子が夢に見た、亀を持って迫ってくる姿は少し怖さもあった(第53話)。部屋は本とレコードで散らかりまくり、スズ子の評論を喜々として読みあげる様子なども、やばい。真面目で清潔感があって、スポーツマン的な水上がインドアキャラを演じるギャップが面白さになっている。 ピュア過ぎる部分も、「痛いカップル」というふうに見れば、おもしろく見られそうだ。 ●参照 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b5ca113ad052d12f8523aa3ab79d0df58c3c7e81
木俣冬