アベノミクス3年 指標から見る成果と課題
図は、「全国消費実態調査」により、世帯の年間収入と有業人員(働く人の比率)の関係をみたものです。世帯主の年齢階級別のグラフですが、ずらして現在の年齢の人の収入を5年前、10年前と比較できるようにしています。たとえば、現在55~59歳の人は、5年前は50~54歳でしたので、そのときの収入を並べています。 図をみてわかるように、50代の人では1人当たりの収入が減っています。退職する人がいるため、平均で下がったのだろうと思ったのですが、世帯で働く人数(対世帯人数比)はむしろ増えているので、そうではありません。 一方で、それより若い世代では増えています。けれども、これは年功賃金の影響です。収入は、10年前の同年齢の人と比べると低くなっていることがわかります。 さらに、今の40代の人と50代の人の収入がほぼ同じです。この状況では40代の人は、自分が50代になった時に給与はあまり増えていないだろうと感じているはずです。そのためか、配偶者らが働きに出ているケースが増えています。 結局、たとえば50代の人は昔と比べて給与が下がり、40代以下もこれからあまり増えないだろうと実感しているのではないかということが、統計に表れています。
背景にある産業構造の変化
この背景には産業構造の変化、すなわち製造業からサービス業への転換があります。サービス業は規模の効果があまり働きません。たとえば、介護を考えると、これまで5人を担当してきた人が、工夫したとしても50人に増やすということは難しいでしょう。 かといって、製造業で盛り返すことも難しいです。新興国での生産が増加しているため、それらの国の賃金水準との競争になってしまいます。 アベノミクスでは、景気は良くなったといえます。しかしながら、賃金については、政府も様々な方策を講じているものの、これを解決するのはかなり難しいのです。インフレ率についても同様でしょう。サービス業を中心に生産性を上げるしかありません。そう考えると、賃金引き上げ要請や最低賃金の引き上げは、根本的な解決策にはなっていません。 今後、アベノミクスという政策パッケージは、日本経済の構造問題に対処する必要があります。アベノミクス第2ステージでは、2020年頃にGDP600兆円という新しい目標を掲げるとともに、その達成のため、一億総活躍社会の実現、女性・若者・高齢者の雇用を促進(500万人規模)、生産性革命、地方再生の本格化など、日本経済の構造問題への対応策が並んでいます。けれども、それはかなり難しい課題です。私たちは短期的な効果を求めすぎずに、それぞれの政策の有効性をじっくり吟味すべきでしょう。 (釣 雅雄・岡山大学経済学部准教授)