じつは、多くの人が誤解している…「DNAの一致度98.7%」なのに、チンパンジーとの血縁度がゼロと言える「じつにシンプルな理由」
家族よりチンパンジーを助けるべきか
以前に、こんなことを訊かれたことがある。 「親が子どものために命を投げ出すのは、血縁度が50パーセントもあるからでしょう。子どもは自分と同じ遺伝子をたくさん持っている。だから、自分と同じ遺伝子を残すために、親は子どもを助けるのよね。でも、それならチンパンジーはどうなるの。人間とチンパンジーのDNAの一致度は98.7パーセントだから、50パーセントよりずっと高い。ということは、もしも仮に、子どもとチンパンジーを連れている時に、命の危険を感じるような事故が生じたら、自分の子どもより先に、チンパンジーを助けるべきなのかな」 【画像】じつは、科学が示した真実に、賛成したのも反対したのもキリスト教徒だった この話の中で、「自分と同じ遺伝子をたくさん持っているから助ける」という部分は、べつに法則というわけではないし、かならず成り立つわけでもない。しかし、大ざっぱにはそういう傾向があるので、ここでは成り立つことにしよう。 さて、その場合、私たちは本当に家族よりもチンパンジーを優先して助けるべきなのだろうか。
減数分裂と血縁度について
私たちは父親(あるいは母親)と50パーセントの遺伝子を共有している、とよくいわれる。その意味は、以下のようなものである。 私たち人間は有性生殖をする動物なので、子は父親からも母親からも遺伝子を受け継ぐ。 とはいえ、もしも父親と母親のすべての遺伝子を受け継いだら、子の遺伝子は父親や母親の遺伝子の2倍になってしまう。そして孫は4倍、ひ孫は8倍と、際限なく遺伝子が増えてしまう。 それでは不都合なので、子は父親からも母親からも、それぞれの遺伝子の半分しか受け継がないようになっている。 つまり、父親が精子を作るときや、母親が卵を作るときには、減数分裂という特殊な細胞分裂をして、精子や卵のDNAを半分に減らしているのだ。そういう精子と卵が受精して子になるので、子の遺伝子の数は、父親や母親の遺伝子の数と同じになるわけだ。 その結果、父親(あるいは母親)と子は、それぞれの遺伝子の1/2を共有していることになる。この1/2を血縁度という。言葉で定義すれば、 「近い祖先から受け継いだ遺伝子の共有率」 ということになる(血縁度の定義は複数あり、これはそのうちの一つである)。