露天商の女性は自宅駐車場に即席の販売所を開いた。「買いに来てくれる人がいるか分からないけど。無事かなぁ」。輪島朝市の常連客に思いをはせた
うずたかく積み上げられたダンボール箱の中に、オレンジ色のミカンがぎっしり。5、6個ずつ取り出しては、手際よく袋に詰める。露天商の田中そとえさん(74)=石川県輪島市二ツ屋町=は「仕事がないことが一番寂しいからね。買いに来てくれる人がいるか分からないけれど」と嘆きながら、自宅駐車場に即席の販売所を作った。 大規模火災に見舞われた観光名所「輪島朝市」で約40年、果物や野菜を売ってきた。「地元のお客さんも多かった。顔が思い浮かぶよ、無事かなぁって」。電話番号を知っている人もいるが、相手の状況が分からない怖さもあり、連絡をためらっているという。仕分けを続けると、いくつか傷んだものがあった。仕入れは昨年12月29日。もう3週間がたっていた。 「雪の中で何十年も商売してきたからね。寒さには慣れていた。けれど地震には勝てなかったなぁ」。1袋350円の値札を立てた。3袋買って帰りたいと告げると「じゃあ千円で。おまけもほら。ほらほら」と、どっさり持たせてくれた。こんなやりとりが数え切れないほど交わされてきたのだろう。引き裂いた地震が、憎い。
〈能登半島地震「被災地を歩いて~本紙記者ルポ」より〉
南日本新聞 | 鹿児島
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