【社説】国立大の値上げ 家計負担を抑える対策も
東京大が授業料の値上げを決めた。九州大は値上げの可能性を否定したが、検討している国立大は多い。東大の決定が波及する可能性がある。 高等教育を受ける機会が、経済的な理由で失われてはならない。家庭の負担軽減と、国費増額に向けた議論を新内閣の下で深めてほしい。 東大は2025年度の学部入学者から、年間53万5800円の授業料を11万円ほど引き上げ、64万2960円とする。20年ぶりの授業料改定となる。在学生は対象外で、大学院は修士課程で29年度の入学者から引き上げる。博士課程は据え置く。 家計が厳しい学生への支援も拡充する。授業料全額免除の対象世帯の収入を「400万円以下」から「600万円以下」に広げ、「600万円超~900万円以下」も状況に応じて一部を免除する。 一橋大や千葉大などは既に値上げに踏み切った。進路の選択に影響するので、不安に思う家庭もあるだろう。 地方でも授業料値上げとなれば、保護者の仕送り負担を考慮し、自宅からの通学を考えている若者が大学進学を諦めてしまうかもしれない。 それは社会にとっても大きな損失である。慎重な検討を大学に求めたい。 国立大の授業料は文部科学省令で標準額が定められ、1万5千円値上げした05年度以降は変わっていない。 大学の判断で最大2割まで増額できる。東大は上限の値上げで年間収入が13億5千万円増えると見込み、教育環境の改善や海外留学者の奨学金増額などに充てる。財源の多様化を進め、国際競争力の向上を目指すという。 授業料値上げの背景には大学の厳しい財務状況がある。04年度の国立大法人化で、主財源である運営費交付金を国が配分する仕組みが導入された。交付額は財政難などを理由に減額傾向にある。 各大学は支出を削減し、企業からの受託研究費や寄付金の増加に努めている。それでも物価高騰や教職員の人件費が膨らみ、経営は厳しさを増す。その事情は理解できる。 日本は先進国の中で高等教育への公費支出の割合が低過ぎる。経済協力開発機構(OECD)が9月に発表した報告書によると、加盟国平均の68%に対し37%にとどまる。 国が運営費交付金や私学助成金を減らしたため、大学の教育と研究の環境が劣化し、授業料値上げを招いている。民間資金の獲得は学部や学科によって限界がある。 人材育成機関として大学の役割は大きい。国は予算を増やすべきだ。 奨学金制度も、貸与型中心から返済不要の給付型への見直しが急務だ。返済が卒業後も長く重荷になっている現状は改めなくてはならない。 同時に大学は教育の質を高める必要がある。少子化で大学が淘汰(とうた)される時代だ。地方の大学は立地する地域への貢献が一層求められる。
西日本新聞