【人手不足 陸・海・空 荒波の先】 (7)航空貨物、荷役自動化へ。コロナ経て非効率に終止符
新型コロナウイルス禍が明けて旅客需要が急激に戻る航空業界。特に、搭乗客の案内や荷物を積み込む地上支援業務(グランドハンドリング)はもともと人手不足が深刻だった上、コロナ禍の旅客激減で離職が増えていたため、需要のV字回復に人手が追い付かない。貨物に携わる人手も慢性的に不足するが、成田では将来的に施設を集約して荷役の大半を自動化するなど、非効率な荷役体制に終止符を打つ。 ■旅客需要が急回復 国内の空港では昨年、保安検査場前に長蛇の列ができる様子が度々報じられた。コロナ禍が明け国内旅行・出張の需要が本格的に戻ったほか、国際線も一昨年から水際対策が緩和され、訪日外国人旅客が大幅に増えた。 一方、空港で働く地上職員はコロナ禍に離職が相次いでいた。昨年は特に、保安検査員の数が足りず、出発前の手荷物検査が滞った。成田では航空会社の就航・増便の要望に一部のグラハン会社が応え切れず、空港会社が間に入って案件の調整に乗り出したほどだ。 5月末に会見した成田国際空港会社の田村明比古社長は、「マッチングを積極的にやったことで現在はほぼ応需できる状態だ」と述べた。9月には旅客に課す保安サービス料金を値上げし、保安検査員の確保や検査機器の導入を加速させる。 ■国際線、回復率9割 現行の2024年夏季スケジュール(3月31日―10月26日)では、日本の国際旅客便の運航便数が19年同季の93%まで回復する。83%だった直前の23年冬季に比べ、中国線が本格的に戻る。コロナ前に主力だった中国人観光客がこれからさらに戻ってくる。 国土交通省によれば、旅客案内などの旅客ハンドリング、荷物積み込みなどのランプハンドリングの人員は、いずれも昨年を底に回復傾向だ。ただ、4月時点でランプの人員がコロナ前を超えたのに対し、旅客は9割程度。保安検査員もコロナ前の9割を切る水準だ。 航空各社は、コロナ禍に見送っていた採用を急回復させて旅客ハンドリングの強化を図っている。昨夏にはグラハン事業者が集まって「空港グランドハンドリング協会」を設立。業界の採用競争力強化と離職の抑制、省力化・省人化に向けて取り組んでいる。政府も受託料金の引き上げや先端技術の導入を後押しするが、30年に見込む訪日外国人旅客数は昨年比2・5倍の6000万人。旅客・ランプの双方で企業の枠を超えた連携を強めるとともに、自動化に向けた取り組みも進めている。 ■荷待ち改善にDX コロナ禍にむしろ仕事が増えたのは、成田の貨物現場だ。全国で国際旅客便が激減した20―22年にかけては、成田から貨物専用機と旅客機の双方が貨物便として多く運航され、海上輸送の混乱も相まって全国の貨物が成田に押し寄せた。成田が年間に処理できる貨物量は240万トンとされてきたが、21年度実績は260万トン超。全国の貨物量に占める成田のシェアは平時の5割台から6割超に跳ね上がった。貨物現場のスタッフが長時間労働を余儀なくされる状態が2年余りにも及んだ。 急激な物量増により、コロナ前から課題になっていた航空貨物施設の狭隘化や施設分散のデメリットも如実に現れた。「トラックの待機列が貨物地区を大きくはみ出し、第2旅客ターミナルのバス乗り場まで延びた」(トラック事業者)。トラックの長時間待機は平時に戻った現在も週明けを中心に課題になっており、「物流の2024年問題」の観点からも早急な対策が求められた。 成田では、昨年から輸出貨物を搬入するトラックを対象に予約システムを導入しており、トラックの荷待ち改善につなげている。年内には輸入貨物でも同様のシステムを構築して運用を始める。国際貨物の取り扱いが回復する羽田や関西でも類似した取り組みが進む。 ■貨物の荷役を変える 成田国際空港会社は今月、30年代に現在三つある旅客ターミナルを一つに集約して新ターミナルを造る構想をまとめる。コロナ禍で狭隘化と施設分散の課題が露呈した貨物地区も統合・新設する。新貨物地区は複数あるグラハン会社やフォワーダーの荷役機能を集約ないし近接させ、自動化技術を導入してまず年280万トンを効率的に取り扱う体制を整える。 「10年後、成田で貨物現場の仕事に就きたいと思う人が今ほど多くいるとは考えていない」 ある関係者の言葉だが、成田の貨物地区を知る人々のほとんど総意と言っていいだろう。新貨物地区では、パレットやコンテナに貨物を積み付けるULD(ユニット・ロード・デバイス)積み付けの作業のみ、人手を残した。この作業を人間よりも効率的にこなす技術は、直ちに見つかりそうにない。 航空業界では、どうしても人手が必要な作業を見極めて人材を育てるとともに、自動化・デジタル技術を大胆に導入する機運が高まる。 =おわり (この連載は人手不足問題取材班が担当しました)
日本海事新聞社