人はうまくいかなかったことを忘れられない…「キリの悪いところ」でやめるほうが作業を続けられるという逆説
◼️あえて未完にすると「続きをやりたくなる」
こういったメカニズムを知り、「そうだったのか!」と得心した人は多いのではないでしょうか。現代の広告の手法としても重用されているツァイガルニク効果ですが、研究によって証明されたのはなんと80年以上も前にさかのぼります。 そのとき行われた有名な実験は、次のようなものです。 被験者を2つのグループに分け、簡単な作業や粘土細工、パズルを解く課題などに取り組んでもらいます。 Aグループは最初から最後まで、すべての課題を完了させます。一方、Bグループにはひとつの課題を途中でやめさせ、次の課題に移ってもらうようにします。 全課題を終えたとき、それぞれのグループに「今やった課題にはどんなものがあったか?」とたずねると、課題をいちいち中断されたBグループのほうが、Aグループの約2倍の数の課題を覚えていました。 さらに「未完成の図形」と「完成した図形」の知覚実験も行われています。その結果「未完成の図形」のほうが「完成した図形」より記憶や印象に強く残ることが判明しました。 実は、これこそが、明日も明後日も「続ける」ためのコツです。人は、大抵の作業や仕事を「キリのいいところ」まで終わらせてその日を終えます。そして、次の日も「キリのいいところ」まで終わらせ……、この繰り返しです。しかし、これでは作業そのものがマンネリ化してドーパミンが出なくなってしまいます。 そこで、おすすめしたいのが「キリの悪いところ」でやめる方法です。あえて中途半端なところで終わらせるのです。こうすると「続きをやりたい」という欲求が強くなり、翌日にそれをできたことが脳への報酬になってドーパミンを放出。幸福感を得られます。 これが「続ける」ための原動力になるのです。 文/菅原道仁
---------- 菅原道仁(すがわら みちひと) 現役脳神経外科医。1970年生まれ。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞などの緊急脳疾患を専門として国立国際医療研究センターに勤務。2000年、救急から在宅まで一貫した医療を提供できる医療システムの構築を目指し、脳神経外科専門の八王子市・北原国際病院に15年間勤務し、日々緊急対応に明け暮れる。その後、2015年6月に菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、2019年10月に菅原クリニック 東京脳ドック(港区・赤坂)を開院。その診療経験をもとに「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までをサポートする医療を行う。脳のしくみについてのわかりやすい解説は好評で、テレビ出演多数。著書に『そのお金のムダづかい、やめられます』(文響社)、『成功する人は心配性』(かんき出版)、『成功の食事法』(ポプラ社)などがある。 ----------
菅原道仁