Mー1ドリーム実現のバッテリィズ 「あほ」のエースを生かすのは寺家
「ワクワクするバカが現れた。日本を明るくしてくれそう」とは、昨年12月22日に開催されたM-1グランプリ決勝で審査員・若林正恭(オードリー)がつぶやいた言葉。もちろん、準優勝したバッテリィズを評してのコメントだ。 世界遺産のピラミッドやタージマハルを説明する寺家(じけ)に対し「なんで他人の墓参りに行かなあかんねん?」と素直すぎるエースの言葉。「生きるのに意味なんかいらんねん!」という漫才中のセリフは、おおいに話題を呼んだ。 優勝こそ令和ロマンに譲ったものの、上方漫才の伝統とも言える「あほ」を前面に押し出したスタイルは、初見のファンには衝撃でもあったようだ。もっとも、関西のお笑い好きにとっては「ようやくバッテリィズの面白さに気づいたか」ではあるが。 M-1の威力は、やはり大きい。年末年始のテレビを見ていると、バッテリィズが出まくっていた。彼らが出演する劇場のチケットも、いくつか完売の勢い。1カ月前とは、明らかに世界が変わった(同じM-1決勝に出たジョックロックは配信チケットがバカ売れし、本人たちもびっくりしている)。 1年前、2年前からバッテリィズに注目していた記者からすれば、このブレークは正直うれしい。大阪・道頓堀の小さな劇場で、30人ほどの観客を前に仲の良い豪快キャプテン、イチオクとともに漫才していた姿が懐かしくもある。 エースのあほっぷりばかりが注目されているが、相方でネタを書いている寺家について、ここではふれたい。 コンビ名が表すように、2人は芸人の草野球チームで投手と捕手。ともに相当な野球好きなのは同じだが、野球少年がそのまま大人になったようなエースとは対照的に、寺家は「考える野球」を好む。 「次の1球を何にするか、試合状況とバッターの頭の中を読み、ベストの配球を考えるのが好きなんです」とは一昨年5月、日刊スポーツのインタビューに答えた寺家のコメント。 キャッチャーとして必要なインサイドワークこそが寺家の持ち味。だから「高校野球の監督にはあこがれます」と話した。 縁の下の力持ち。そんな言葉がよく似合う。エースの魅力を最大限に引き出し、バッテリィズの漫才をリードする男。舞台では喜怒哀楽をダイナミックに見せるエースとは逆に、寺家はポーカーフェース。それも笑いを誘うための戦略なのだろう。 月亭八方が「アホの坂田以来」と絶賛するエースは、吉本興業の宝。ただ、その男を生かすも殺すも寺家の采配次第。バッテリィズのカギを握るのは寺家なのだ。【三宅敏】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)