「お母さんごめんなさい」介護不安で87歳の母親を殺害 息子(61)が抱えていた生きづらさとは【#司法記者の傍聴メモ】
■“介護ができないとお母さんが…”不安を募らせた渋川被告は
十分に眠れなくなり、いままで当たり前にできていた掃除や買い物ができなくなるほど精神的に落ち込んでいった渋川被告。 生活保護のケースワーカーに「最近眠れない」と相談したところ、精神科クリニックを紹介された。 事件の2週間ほど前に2回受診したという。 *渋川被告の相談内容(捜査報告書より)「将来の母の介護が心配でほとんど眠れない。このまま自分は生きていていいのか」「不安でしょうがない。母の介護と自分の今後が恐怖」 診察で自身が抱える不安について打ち明けた渋川被告はうつ病と診断された。 抗うつ剤と睡眠薬を処方されたが、症状は改善しなかったという。 そして、事件当日の9月8日。 普段通りに起床した渋川被告は、朝食に母親が焼いたソーセージとゼリーを食べたという。 すると午前11時前、母親が突然「めまいがする」と言って椅子に座りこんだ。 その様子を見ていた渋川被告に強烈な不安が襲ってきた。 “自分には介護はできない。介護ができないとお母さんがかわいそうだ。お母さんを殺して自分も死のう” パニックになったという渋川被告。 めまいが落ち着き台所に移動した母親に、背後から近づき首を絞めようとした。 「殺さないでくれ。やめろ」。母親は自宅の中を逃げ回り必死に抵抗したが、渋川被告が追いかけ母親の首を両手で絞め続けた。 しばらくすると、母親は動かなくなったという。 “まだ苦しんでいるかもしれない…最後までやろう” こう考えた渋川被告はさらに、母親の首に電気コードを巻いて締め付けた――。 渋川被告はその後、自殺しようと考えたが、結局怖くてできなかったという。 どうすればいいのかわからなくなった渋川被告は自ら110番通報。 母親は搬送先の病院で死亡が確認された。
■精神鑑定医が出廷「IQ70で境界知能」
なぜ渋川被告は介護の必要がなかった母親の将来について、これほどまでに不安を感じたのか。 裁判では、逮捕後に渋川被告の精神鑑定を行った医師が証人として出廷した。 鑑定医は渋川被告について「犯行当時うつ病だった」としたうえで、「IQ(知能指数)が70で“境界知能”にあたる」と話した。 境界知能とは、IQの数値が平均と知的障害とされる数値の狭間にある状態のこと。 知的障害とは診断されず、境界知能に特化した公的な支援はないため、見過ごされやすいという。 鑑定医によると、一般的にIQが69以下だと知的障害と診断されるといい、IQ70とされた渋川被告の知能はまさに“境界”そのものだった。 実際に渋川被告は被告人質問で「小中学校の時の成績は5段階中ほとんどが1」「高校を中退した理由は勉強についていけなかったから」と話していた。 渋川被告は事件を起こすまで検査を受けたことはなく、自身が境界知能であるとは知らなかった。 鑑定医は犯行に至った経緯ついて「抑うつ状態で母親の将来の介護について過剰かつ病的に不安を感じ心理的に視野が狭くなっていた。境界知能で解決策を考えることも困難だった」と分析。さらに、「公的にサポートするサービスがないので生きづらさはあると思う」と話した。