『ライオン・キング:ムファサ』尾上右近&松田元太が語り合う、仲間との“絆”と初舞台の思い出「いるのが当たり前の家族のような存在」
映画、演劇、音楽において歴史に名を刻んできた一大叙事詩「ライオン・キング」。そのはじまりを描く、ディズニー史上、最も温かく切ない“兄弟の絆”の物語となる超実写版映画『ライオン・キング:ムファサ』が12月20日(金)より劇場公開される。本作では、『ライオン・キング』(19)で息子シンバを命懸けで守ったムファサ王と、のちにムファサの命を奪う“ヴィラン”スカーとなるタカが織りなす、若き日の兄弟のような強い絆を描く。 【写真を見る】尾上右近&松田元太、ミニムファサ&タカと一緒に仲良くツーショット! MOVIE WALKER PRESSでは、本作の超実写プレミアム吹替版で声優に初挑戦した歌舞伎俳優の尾上右近と、Travis Japanの松田元太にインタビュー!冷酷な敵ライオン・キロスから群れを守るため、新天地を目指す旅の過程で、孤児から王となっていくムファサ、そして彼と運命的な出会いを果たすタカ。右近は主人公のムファサ役に、松田はタカ役に抜擢され、血のつながりを超えた兄弟愛を紡ぎあげた。 ■「ムファサにとってタカは表裏一体の存在」(右近) ――まずはオーディションを経て、声の出演が決まった際の心境から聞かせてください。 右近「以前から声の仕事をやってみたい、歌もやっていきたいという気持ちがあるなかで、ディズニーのファンでもある自分が、ディズニー作品で声優を務められるなんて、長年思い描いていた夢のようなことでした。 特に『ライオン・キング』はすごく好きな作品で“サークル・オブ・ライフ”という自然界の大きな伝統のなかで、王様というものが受け継がれていく作品だと受け止めています。僕は “歌舞伎界のプリンス”とメディアではよく言ってもらいますが、自分としては歌舞伎俳優の子どもではなく(歌舞伎の伴奏音楽を担当する清元の家に生まれ、右近も七代目清元栄寿太夫を襲名)、ある種、自力で頑張っていくという気持ちでやってきたところもあるので、ムファサの気持ちに寄り添えるはずだとも思いました」 松田「たぶん今世紀一番のうれしさはありました。いつかはディズニーさんのお仕事をしたいという夢があったので、とにかくうれしかったです。また、Travis Japanとしても、一つエンジンがかかるなと。『ライオン・キング』のファンの方はたくさんいらっしゃるので、自分のできることは死ぬ気でやろうと心に決めました」 右近「自分の想いや夢を強く思うことは大事ですよね。あ、松田くん、“げんげん”って呼んで大丈夫?僕も“けんけん(尾上右近のニックネーム)”って呼んで」 松田「(うれしそうな顔で)え!いいんですか!」 ――では、お互いの印象についても聞かせてください。 右近「ムファサにとってタカは表裏一体の存在です。どの仕事もそうですが、自分一人ではなく相手の方がいてのことなので、どういう人が兄弟になるのかと一番気になっていました。それで、げんげんがやると聞いて、めちゃくちゃテンションが上がったし、役にもぴったりだと思い、早く彼の声を聞きたいなと思いました」 松田「うれしいです!タカ自身、ムファサがいないと、タカとしていられない瞬間があるので、右近さん、いや“けんけん”さんの声を聞いた時は、本当に安心感がありました」 右近「“けんけん”でいいから(笑)」 松田「いいんですか!?けんけんが自分のなかでもタカにとってもお兄さんに思えたし、けんけんの声を聞いただけで、見えないところでつながっている絆を感じ、甘えたいと思えました」 ■「山田涼介くんに『すげえじゃん。頑張れよ。観に行くね』と言ってもらえて、とにかくうれしかった」(松田) ――周りの方々の反響はいかがでしたか? 松田「まずはメンバーが一番喜んでくれましたし、家族やファンの皆さんもそうです。また、お世話になっているHey! Say! JUMPの山田(涼介)くんとちょうど食事をする機会があったのですが、決まったタイミングで『すげえじゃん。頑張れよ。観に行くね』と言ってもらえて、とにかくうれしかったです」 右近「みんなが祝福してくれました。歌舞伎界は、みんな目の前の舞台にずっと向き合っている職人の世界なので、あまりお互いの仕事についてなにか反応することはないのですが、今回は稽古場で、いろんな人から『ムファサ!』と呼ばれました(笑)。あとは情報解禁になった日に、尾上松也さん(「モアナと伝説の海」シリーズのマウイ役)から『これでお前もディズニーファミリーだな』 とあたたかいLINEをいただきました」 ――オーディション前に、なにか準備されたことはありましたか? 松田「僕はずっと曲を聴いていました」 右近「僕もそう。ただ、オーディションのことを外に言っちゃいけないし、口ずさんでもいけなかったので、楽屋でイヤホンをして聴いていました。普段はしないので、なにか悪いことをしているみたいな気持ちになっちゃって(苦笑)」 松田「人前で練習できないですからね」 右近「あと具体的には言えませんでしたが、松也さんと松たか子さんに、どういうお気持ちでオーディションを受けたのかを伺いました」 松田「すごい!雪の女王さまから!」 ――怪しまれたりはしなかったのですか? 右近「そこはご自分も経験があることなので、深くはツッコまれませんでした」 ■「僕の人生は“ジャパニーズ・ライオン”から始まっています」(右近) ――今年は「ライオン・キング」の公開30周年ですが、お二人の「ライオン・キング」の思い出を聞かせてください。 右近「僕は32歳でほぼ同世代というか、僕らの世代を代表するディズニー作品かなと。また、歌舞伎には獅子という役柄があるんですが、僕が歌舞伎の道を歩むきっかけになったのは、3歳の時に『春興鏡獅子』という演目の映像を観た時なんです。奇跡的に現存していたひいおじいちゃん(六代目・尾上菊五郎)が踊っている姿を観て、自分も歌舞伎をやりたいと思いました。ほかにも歌舞伎の演目には、親の獅子が子どもの獅子を育てる『連獅子』という、まさに『ライオン・キング』みたいな話もあったりして。“ジャパニーズ・ライオン”から僕の人生始まっているんですよね。」 ――松田さんはいかがですか? 松田「僕自身もディズニー作品のなかで『ライオン・キング』が特に好きです。学校の行事などでも、『ライオン・キング』の曲を歌ったり踊ったりしてきたので、僕もサバンナ出身のライオンだ!と、どこかで思ってガオガオしてきました」 右近「それ、絶対そう思ってる?」 松田「6、7割は思っています(笑)」 ――初めて収録でアフレコをやってみていかがでしたか? 右近「気持ちは作っていくにしても、シーンの長さに合わせて何秒からしゃべりだして、何秒でしゃべり終わるのかということは、事前に準備できませんでした。備えようもないことを一生懸命備えていた感じでしたね」 松田「いままでやってきたお芝居とはまた別の感覚でしたね。しかも字幕版で声を当てられている方がいるから、そこにもちゃんと寄せつつ、タカの気持ちものせないといけない。激ムズというかパニックでしたが、自分ができることはすべてやろうと、全力で“タカりました”」 右近「タカった!?(笑)」 松田「はい!タカりました(笑)」 ■「いろいろと経験して自分の幅を広げ、大きな存在になりたい」(松田) ――お二人もムファサとタカのような深い絆を感じることはありますか? 右近「歌舞伎の世界とすごく共通点がある気はしました。僕の場合、小さいころからみんなと一緒にいて、家族のような感覚で生きてきましたから。ただ、ムファサみたいに自分で頑張って自分の道を歩むという意味での距離感は違うなとも思いました。例えば、舞台や映像のお仕事での共演者さんとは、『はじめまして』でお互いを知るところからのスタートなので、“ゼロからイチになる”の関係値ですが、歌舞伎の場合は、もともとの信頼関係でお芝居を作ることが当たり前の世界なので。 また、20代でお互いに切磋琢磨しあい、自分の道を探りながらやってきて、いま30代となり、自分が主役を張る大きな舞台で仲間が一緒に出てくれたり、その逆もあったりするなかで、刺激しあう間柄からお互いに感謝し合う間柄に変わってきたなとは感じます。“自分の城”を築かなければと思っていた20代ですが、30代になってそれは“みんなの城”だったと気づけたのは、ずっと一緒にやってきた関係性があったからです。だからお互い真剣にやってきてよかったと思っています」 松田「めちゃくちゃムファサじゃないですか!」 右近「それが歌舞伎界です。血じゃなくてそれぞれの想いや、同じ時代に誰とどんな歴史を作っていくかということが繰り返され、伝統になっていくのかなと」 ――そこにプレッシャーはありますか? 右近「自分が好きでやっていることだから、プレッシャーはあまりないです。でも、責任は生じ始めていて、先輩にプレッシャーをかけるべきだとか、後輩から見られているというプレッシャーはあります」 ――松田さんはいかがですか? 松田「僕も、楽しい!好き!という想いがいつも根本にあるので、そこをどんどん追求していきたいと思うだけです。先輩方のお話を聞くのも好きだし、いろいろと経験して自分の幅を広げ、僕もいつかけんけんみたいに、大きな存在になりたいです」 ――では、松田さんにとってTravis Japanのメンバーはどういう存在ですか? 松田「メンバーとは絆を築くという関係性ではなく、いるのが当たり前の家族のような存在です。1人でお仕事に行っても、帰ってこられる環境があるというか。でも、よくよく考えればそれは当たり前のことではなくて、みんなとの絆があってこそいろいろなことを経験できているので、戦友のようなものです」 ■「ムファサとスカーが悲しい関係になるのは、とても強い絆があったからだとわかってもらえるはず」(右近) ――「ライオン・キング」で思い出深いナンバーについても教えてください。 松田「高校の時、アメリカの学校の生徒とコラボする機会があって、言語も違う知らない人たちといきなり会って、『ライオン・キング』の楽曲で一つの舞台を一緒に作り上げたことがあります。言葉の壁もありましたが、やりましたね」 右近「いい経験ですね!僕は『ライオン・キング』の曲は普段からよく聴いていましたが、特にエルトン・ジョンの『愛を感じて(Can you feel the love tonight) 』が好きです。楽屋の支度中に聴いています」 松田「僕も超好きな曲です!最新作『ライオン・キング:ムファサ』で特に好きな楽曲は、けんけん演じるムファサとサラビが歌う劇中歌『聞かせて』です。本当に声がよすぎて、即購入だなと思いました」 右近「超うれしい!」 ――お二人は、若き日のムファサとタカの絆を物語るミュージカルナンバー「ブラザー/君みたいな兄弟」を劇中で一緒に歌われたそうですね。 松田「彼らは最高の兄弟だったということを歌いましたよね」 右近「やはり物事には反動があり、『ライオン・キング』をご覧になっている方は、ムファサとスカーがああいう悲しい関係になってしまったのは、とても強い絆があったからだとわかってもらえるのではないかと。その曲もいいので、ぜひ買ってください(笑)」 ■「堂本光一くんからの言葉は、いまでも心に響いています」(松田) ――本作が「ライオン・キング」の“はじまりの物語”ということで、お二人にとっての初舞台やデビューした当初のエピソードや、お世話になった先輩などについても聞かせてください。 右近「単発の舞踊ではなく、初めて歌舞伎の舞台に出たのは7歳の時で、(中村)勘三郎さんの舞台でした。子どもだからめちゃくちゃ褒めてくれるけど、勘三郎さんは決して僕を子ども扱いせず、芸人としてしっかり教えてくれるという本当に幸せな環境で、これが毎日続くなんて、ここは天国だと思いました。だから、1か月の公演を終える千穐楽の次の日は地獄で、あまりにもつらくてショック状態だったから、次の日、学校に行けなかったんです。号泣しながら勘三郎さんに電話したら『ダメだよ、学校行かなきゃ。僕も次の仕事をやるからさ』と言われました。 いまでも『楽しい時間は終わりが来る、そして次のまた始まりがやってくる』というサイクルでお仕事をしています。でも、終わることが寂しいと感じるのは、それだけ気持ちがそこに寄り添っていたからなので、毎回千秋楽の日に寂しいという気持ちを抱ける自分でいたいとも思っています」 松田「すごくすてきなお話ですね。僕はKinKi Kidsの堂本光一くんのお芝居『Endless SHOCK』でしたが、舞台経験もほとんどなかったので、そこでいろんな“はじめて”を経験させてもらいました。その時、光一くんと二人きりになったタイミングで『僕はどうしたらいいですかね?』と相談したら『無理してでも死ぬ気でやれ』と、ぽろって言われて。僕もなにが正解かは当時、わからなかったのですが、ちゃんと真摯に真っすぐやるということで、最近になって『これなのか!』と思える瞬間があり、いまでもすごく響いている言葉です」 ――最後に、さらに進化した超実写版『ライオン・キング:ムファサ』の映像についての見どころも教えてください。 松田「やはり迫力は、より増し増しですごかったです。一頭ずつ、容姿もキャラクターも声も違いますし、すごくおもしろいなと感じました」 右近「まるで実物のライオンを見ているかのような“究極のリアル”だなと驚きました。ムファサで言えば、タカを思ってしゃべるシーンの目線などが人間的な表情表現と折り重なっていて、より共感が深まります」 松田「自然の風景もすごくて、ムファサが風を感じる瞬間に、僕は風が見えた気がしました。けんけんの声を聞いたうえで、そう感じました」 右近「あのシーンでしょ!確かに風が見えるかも。だから本作はぜひ大スクリーンで観てほしいです」 取材・文/山崎伸子