日本車はなぜ売れ続けるのか? なぜ強いのか? 厳しい自然環境が育んだ耐久性と信頼性、円安の“追い風”で再考する
日本車の品質革新
以上の考察と事実から、筆者は日本車が高い品質と信頼性を獲得した理由は、次の4点に集約されると考えている。 ●技術革新 日本の自動車メーカーは、革新的な技術を積極的に導入し、高性能エンジンや効率的で環境に優しい燃料システムを開発してきた歴史がある。1970年代、本国米国では実現不可能とされ、廃案となったマスキー法案(排ガス規制)をいち早くクリアした。また、21世紀に間に合うようにハイブリッド車を世界で初めて実用化した。 ●品質管理 日本の自動車メーカーの品質管理基準は極めて高いといわれている。生産工程全体で品質を確保するために厳しい品質管理体制を敷いており、「TQC = クオリテイコントロール」として早くから部品や組み立ての品質チェック工程を取り入れてきた歴史がある。 ●長期耐久性 日本の自動車メーカーは、長期的な耐久性を念頭に置いてクルマを設計している。部品の耐久性・信頼性テストを実施し、定期点検や車検も法律で厳しく定められており、ユーザーが長く愛用できるようになっている。 ●信頼性に関する文化的価値観 日本の企業文化では、品質と信頼性は極めて重要な価値観とされている。特に自動車メーカーは、信頼性の高い製品を顧客に提供することに強いこだわりを持っている。 つまり、メーカーの努力の結果と、それを導く自然環境、そしてユーザー目線の厳しさが、日本車の高い品質と信頼性を培ってきたのである。
競争が生む技術革新
また、ユーザーの声を把握する経路も、おそらくユニークなものだろう。なぜなら、メーカー直販とは異なる販売会社から膨大な情報、ときにはクレームが報告されるからだ。歴史的に見ても、こうした販売会社は地元の有力者や実力者が仕切っていることが多い。 また、トヨタは個人タクシーやジャパンタクシーなど、タクシー車両の巨大なマーケットを持っている。タクシーの総台数は約24万台といわれ、その約半数(実際はそれ以上だが)からのフィードバックは、実戦でしか得られない。その結果が、トヨタ車の卓越した品質向上と故障率の低さにつながっていることは想像に難くない。 さらに、トヨタや三菱だけでなく、乗用車メーカーが世界規模で7社も存在していることも、よい意味での競争激化に寄与している。その結果、品質向上や技術革新が急ピッチで研ぎ澄まされている。 以上のような歴史と環境の積み重ね、そしてマーケットの特殊性が、日本車を今日の地位へと押し上げたと筆者は考える。また、自動車産業は製造品出荷額約70兆円、雇用者数550万人という日本の産業基盤全体を支える産業であることは間違いない。 そのなかで、「技術革新」の部分に影が差してはいないだろうか。3月に発表された経済産業省の資料によると、BEV時代のカギを握る「全固体電池」の国家予算は2023年に引き続きわずか18億円にとどまる。 さらに、同資料には「電気自動車用革新型蓄電池開発事業」として24億円が別途計上されているが、合わせても42億円にすぎない。これで中国などの先進国に対抗できるのだろうか。