税金は? 排水は? 「小屋暮らし」の理想と現実
厄介なのは排水やトイレ問題
生活上の一番の問題は排水や廃棄物の処理。「水は手に入れるより捨てる方が厄介です」と高村さん。地域の条例などによって違いがあるそうですが、家庭内から出る排水は原則、下水管や浄化槽を通さなければなりません。高村さんの土地に下水管はなく、合併浄化槽は設置に数十万円がかかります。そこで洗剤や石けん、歯磨き粉などは一切使わず、食器類は油を必ず拭き取り、「水だけでピカピカ」になるスポンジで洗うことにしました。 すると排水はほとんど無害になるので、畑にまけます。ラーメンの汁など、塩分の多い排水は別の配管に分けて自然蒸発。尿は排水と一緒に畑へ。大便は自作のコンポストトイレで発酵させ、やはり畑の肥料にします。コンポストには米ぬかをかけていましたが、最近は薪ストーブの灰をかけると消臭作用があり、虫や動物も寄ってこないと分かったそうです。 「排水の規制は地域によって厳しかったり緩かったりで、害がなければ垂れ流しでいいところもあるようです。また、建築物かどうかの判断も地域や担当者によって解釈が異なりますので、事前に問い合わせるのが確実。建築基準法とは別に、その建物が住宅として課税されるか否かという調査、判断もあります」と、慎重に「法令順守」する高村さんは、これまで苦情を受けたり、トラブルに見舞われたりしたことはないそうです。
周囲に迷惑掛けず、最後まで責任を
こうしたライフスタイルは、法律のプロである弁護士から見るとどうでしょう。不動産や相続から空き家問題などまで手掛ける、みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は「トレーラーハウスなどの扱いに似ていますが、土台がなく、上下水道もパイプで固定していなければ確かに建築基準法上の建築物にはなりません。登記しなければ固定資産税なども問題にならないでしょう」と認めた上で、「最も心配なのは、悪臭や火災による延焼などで近隣に被害を及ぼす恐れ」だとします。 「台風で屋根が飛んで周りの住宅や人を傷つけるようなことも『想定外』ではなく考え、対策をしておくべきでしょう。また、長く留守をしたり、気が変わって小屋暮らしをやめたりすると、放置された小屋にホームレスが住み着くことや犯罪の拠点になることもあり得ます。長期的な生活で周囲に迷惑を掛けないように、最後は解体して元に戻すところまで責任を持って、小屋暮らしを楽しんでほしい」。三平弁護士はこうしたアドバイスを寄せました。 小屋暮らし的な生活は、さかのぼると鴨長明の『方丈記』からヘンリー・デビッド・ソローの『森の生活』、ヒッピー・ムーブメント、最近の「0円ハウス」や「ノマド」ライフなど、形を変えていつの時代にも一種のあこがれとして存在します。特に日本の若者は、会社組織の縛りや地域社会のしがらみから解放されたいといった願望や、東日本大震災以降はエネルギーの自立という切実な問題意識も抱えていることでしょう。 そこにホームセンターなどで安く多様な建材が買えたり、若者同士がネットを通じて欧米の「スモールハウス」などについて情報交換したりするなど、時代や技術が追いついてきました。上の世代からはまだ田舎暮らしの延長や「世捨て人」的なイメージで見られるでしょうが、これからの世代には人生のポジティブな選択肢の一つとして広まっていくかもしれません。 「日曜大工などの経験がまったくない僕のような素人が、単に家賃節約のためだけに小屋暮らしを始めると、思ったよりお金や時間がかかってしまい、アパートのほうがよかったということになりかねません」という高村さんも、お金や法律の問題を最低限踏まえた上で、小屋暮らしの心構えについてこう助言します。 「自分の土地や城がほしい、自然に囲まれた暮らしがしたい、静かな環境がほしい、DIYで小屋を建ててみたい、高消費生活に疑問を感じる、生活を心機一転したい…。動機は人それぞれ違うでしょうが、コストパフォーマンスに加えて何か一つでも惹かれるものを感じれば、小屋暮らしはきっと面白くなるでしょう」 (関口威人/Newzdrive)