【日本ダービー回顧】逃げ馬不在の機先を制したダノンデサイルと横山典弘騎手 ダービージョッキーたちの熱い駆け引き
ダービーを知る者たちの駆け引き
岩田康誠騎手、武豊騎手、横山典弘騎手、川田将雅騎手と先行勢の顔ぶれはすべてダービージョッキー。その中にいたのが戸崎圭太騎手とジャスティンミラノ。これだけダービージョッキーが前を固めれば、ペースが速くなるわけがなかった。 前半1000m通過1:02.2は86年以降、良馬場のダービーでは17年レイデオロ(1:03.2)、95年タヤスツヨシ(1:02.8)、86年ダイナガリバー(1:02.5)に次ぐ4位タイの遅さ(同タイムは89年ウィナーズサークル)。レイデオロのダービーは勝ち時計2:26.9であり、今年は2:24.3。後半1000mが11.7-11.3-11.1-11.2-11.5で56.8と速く、スローであっても中身は濃い。 そんな締まった後半を演出したのは、向正面で勝負に出た4着サンライズアースと6着コスモキュランダだった。2コーナー17番手と13番手になった2頭はベテラン勢が前を固める遅い流れにこのままでは勝負にならないと察知した。この2頭に騎乗したのも池添謙一騎手とミルコ・デムーロ騎手のダービージョッキー。ダービーを知る者の嗅覚は鋭く、さらに動いて勝負に出られる度胸もダービージョッキーだからこそ。前を固めるダービージョッキーたちと抗うダービージョッキーたちの駆け引き。これこそダービーの魅力といえる。
敗因なき2着ジャスティンミラノ
残り800~200mは11秒台前半であり、3コーナーから坂を上がるまで瞬発力を繰り出し続けなければ、勝負にならない。ポジションの重要性が強調されるダービーだった。これを後ろから差し切るのは現実的ではない。5着レガレイラに騎乗するルメール騎手はもちろん、この流れを察知できていたはずだ。 自身が勝ったレイデオロとは違い、動きにくい内のポジションに入ったこともあるが、強気に後方から動かすのはレガレイラに厳しいというジャッジもあったのではないか。この辺の馬の感触は乗り手ならではのもので、外側からはわからない。なぜ動かないのか。そういった声も上がるかもしれないが、おそらく動けなかったというのが真相だろう。 ダノンデサイルの父エピファネイアと2着ジャスティンミラノの父キズナは13年ダービーで激突し、キズナが勝ち、エピファネイアは2着に敗れた。息子の代になり、それを逆転してみせたのも物語を感じる。エピファネイアの父シンボリクリスエスもダービー2着なので、父と祖父の無念をダノンデサイルは晴らしたことになる。ロベルト系ではあるが、エピファネイアは母シーザリオからサンデーサイレンスの瞬発力を譲り受けており、いわばロベルトの進化形だ。 ダノンデサイルの器用な取り口にはシンボリクリスエスも感じとれる。日本近代競馬の縮図のようなダービー馬の誕生はディープインパクト系が大勢を占める現状において、意義深いものがある。サンデーサイレンスに対抗したブライアンズタイムのようにディープインパクト系に対するエピファネイアという図式は今後も続いていくだろう。 2着ジャスティンミラノは遅い流れ、ポジション優位の競馬において、好位をとり、正攻法の競馬を展開した。4コーナーで外に行ったから負けたわけではない。あの形で内に入る選択肢はなく、競馬は完璧だった。しかし、ダービーには通常の競馬における定石とは違うものがある。3コーナー手前で伏兵が動き、流れが厳しくなったのも、普通の競馬ではそう起こらない。ダノンデサイルがラチ沿いを抜け出したのも、そうそうあることではない。あそこを突くのはリスクが高すぎる。しかし、リスクを背負ってでも勝負に出るのがダービーというもの。 完璧に運んだジャスティンミラノに対し、芸術的な勝負に出たダノンデサイルの差は2馬身という着差ほどはない。戸崎圭太騎手にとって3度目の2着は悔しいと表現するしかないだろう。なんのミスもなく、冷静に立ち回った結果だからだ。これで負けるなら、どうすればいいのか。それほど文句のつけようのない競馬であり、ただ着順が2着だっただけだ。その事実が重い。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
勝木淳