阿倍野の長屋再生カフェ 大阪市あきないグランプリ受賞
魅力的な店舗を発掘顕彰する第7回「大阪市あきないグランプリ」がこのほど発表され、表彰を受けた22店の優秀店舗の中から、阿倍野区の焼き菓子カフェ兼アトリエ「月ノ輪」がグランプリに選ばれた。「月ノ輪」は昭和初年創建の長屋を、古風な趣を残して再生。しばし多忙さを忘れてくつろげる雰囲気が特色だ。
デザイナー夫妻が住居兼店舗として開店
閑静な住宅街が広がる阿倍野区長池町。東西にのびる商店街「第一昭和本通商店会」をのんびり歩くと、「月ノ輪」に出合う。熊谷英二さん千鶴さん夫妻が、4軒長屋の1軒を住居兼店舗として改修し、2014年12月にオープン。開店からわずか1年でグランプリ受賞という快挙を成し遂げた。 夫妻ともにグラフィックデザイナーとしてキャリアを積んできた。英二さんの趣味が洋菓子作り。数年前から店舗探しを始め、長屋再生による地域振興に打ち込む地元の不動産会社の仲介で、ご当地に移り住んだという。 英二さんがデザイナーをやめて、焼き菓子作りに専念。千鶴さんはデザイナーと、熊の人形作家を続けながら、接客担当のひとり三役をこなす。店内のあちこちで千鶴さん手作りの熊の人形が、やさしく出迎えてくれる。店名の「月ノ輪」も、熊にちなんだものだ。
「子どもと一緒でも落ち着けるうれしい店」
あきないグランプリは大阪市商店会総連盟と大阪市が、大阪市内約310の商店街、約1万1千店舗の中から、個性的で魅力ある店舗を発掘顕彰するために開催している。「月ノ輪」はデザイン部門の優秀賞5店舗に選ばれたうえ、グランプリにも輝いた。 大賞受賞後もマイペースは変わらない。月曜日から水曜日までは、クッキー、マドレーヌなどの焼き菓子作りに集中。営業は木曜日から日曜日までの週4日間だ。要望があれば、店内をレンタルギャラリーなどとして貸し出す。 30代女性は生後4か月の幼子と来店。和室で焼き菓子を味わいながら、「子どもと一緒でも落ち着ける店ができて、とてもうれしい」と満足げだった。 隣接する昭和町という町名にもあるように、阿倍野区のご当地一帯は、昭和初期、「大大阪」時代の市域拡大に伴い、新たな住宅地として開発された。中間層向けの良質な長屋住宅が、大阪人憧れのマイホームとなっていた。近年になって、老朽化で取り壊される長屋が増える半面、一部は再生されて若い世代が住宅や店舗として活用する傾向も見受けられ、長屋再生が地域振興の新たな可能性として注目されている。 千鶴さんは「1年目のグランプリ受賞は望外の喜び。お店は3年間がんばって初めて認められると思う。いつまでも愛してもらえる店舗にしたい」と意気込む。傍らで英二さんが「皆さんがくつろげる雰囲気を守っていきたい」と話す。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)