社説:臓器移植の体制 助かる命救う基盤の強化を
現代の医療では臓器移植でしか救えない命がある。国民の理解が広がり、臓器提供数は増える傾向だが、現場を担う体制の不備が指摘されて久しい。 厚生労働省が、脳死や心停止後の移植臓器のあっせんを一手に担ってきた「日本臓器移植ネットワーク」の業務を分割し、あっせん機関を複数化することを決めた。 移植ネットの業務が多忙化し、臓器提供の善意を生かし切れていない面は否めない。国際的にみても、日本は移植を受けられずに亡くなる人が依然として多い。 国と移植ネット、医療機関が一段と連携を深め、「命のバトン」をつなぐ基盤を強めてもらいたい。 今回の体制見直しの端緒は、移植ネットの深刻な人員不足である。コーディネーターと呼ばれる職員は、臓器提供者(ドナー)の家族への説明や提供を受ける患者の選定、臓器の輸送手段の確保などを担う。だが、提供数の増加に伴い長時間労働が常態化しており、定員の半分程度しか充足できていない。 厚労省の改革案によると、移植ネットのコーディネーターは移植を受ける患者の選定や臓器の搬送手段の確保に専念し、ドナー家族への対応は、地域ごとに新設する法人や、提供施設にいる院内コーディネーターが受け持つとする。 ドナー本人の意思や家族の承諾理由を、医療者から独立した立場で確認するコーディネーターは、移植医療を円滑に進める上で要というべき存在だ。 臓器移植法や脳死判定のルールを熟知し、限られた時間の中で葛藤する家族に寄り添いながら、説明を尽くせる専門人材の育成に国はいっそう力を入れる必要があろう。 移植件数のさらなる増加を目指す上では、医療機関の体制充実も欠かせない。 厚労省の調査では、2023年の脳死者からの臓器提供を巡り、受け入れ側の体制が整わずに延べ509人もの移植手術が見送られた。 具体的には「他の移植(手術)に対応している」「人員がそろわない」「集中治療室が満床」などが理由という。 こうしたケースを減らすため、改革案では、患者が移植を受ける登録病院を現在の1カ所から2カ所に増やせるようにする。助かるはずの命を救う機会が失われることは、手を尽くして防ぎたい。 脳死判定を担う病院の技術の向上も求められる。 厚労省は、脳死判定の実績が豊富な全国17の「拠点病院」が、他の病院に専門医らを派遣して支援する制度を設けている。 京都では、京都第二赤十字病院が拠点病院となり、普段からノウハウの共有や症例研究を行っている。取り組みを広げて、地域格差の解消を目指してほしい。