「植田不況」の始まりか? 繰り返される日銀の失敗…植田総裁の「仰天発言」の中身とは
インフレ目標は「現状維持で達成可能」だった……
日銀のスタンスが大きく変わったことで、金融政策の齟齬も目立つようになった。日銀は、「インフレターゲット政策」を導入している。物価の安定を政策目標とするもので、具体的には、消費者物価の前年比上昇率2%がターゲットだ。改めて日銀の物価見通しをみると、このままいけばインフレターゲットを達成できることになる。であるならば、現状の金融政策を維持すれば良い、ということになる。 なぜ、金融政策が上手くいっているにもかかわらず、いま利上げをしなければならないのか。しかも、このまま日銀の見通しが実現すれば、さらに政策金利を引上げるというが、その場合、インフレターゲットから逸脱するリスクはないのか。残念ながら、こうした点について、植田総裁から整合性のある説明はなく、質疑応答で記者からの質問も出なかった。 ◆景気の「ダウンサイドリスク」を軽視する日銀 利上げの理由について、記者会見では、「持続的・安定的な2%の物価目標をちゃんと実現するという観点からは、少し早めに調整をしておいたほうがいい、というのが一つ大きな理由」と語っている。だが、やはり、なぜ早めに調整をすべきなのかについて、明確な根拠は示されていない。 一方、何の問題もないのに利上げを急ぐことのリスクについては、「実質金利は、依然として大幅なマイナスなので緩和的な金融環境は維持され、景気への影響は大きくない」と繰り返している。名目金利から期待インフレ率を差し引いたものが実質金利で、実際、大幅なマイナスとなっていることは事実だが、景気のダウンサイドリスクを軽視し過ぎてはいないだろうか。 会見では、物価上昇を招いた円安への懸念に何度も言及し、今回の利上げの強い動機になっていることを伺わせた。本来、為替政策は日銀の管轄外であるにもかかわらず、円安への対応を金融政策に担わせたことになる。そもそも、円安は日本経済のデフレ脱却の原動力だった。政治家からの圧力や世論への配慮があったのかもしれないが、リスクが高い措置といえよう。 ◆「植田不況」の始まりか…… こうした一連の動きは、’00年8月の日銀のゼロ金利政策解除を否が応でも想起させる。日銀は、’99年2月にゼロ金利政策を導入したが’00年8月に解除した。だが、そのときはすでにITバブル崩壊が始まっており、主要国の株価は暴落過程にあった。そのため、半年後の’01年2月には、日銀は再び利下げを余儀なくされることになる。 実は、現在、米国株式市場にも暗雲が垂れ込めている。足元で発表された米国の経済指標が急速に悪化しており、米国経済のリセッション懸念とともに、「AIバブル」あるいは「EVバブル」が崩壊する可能性が取り沙汰されている。 ’00年8月のゼロ金利解除は明らかな失敗だった。以降、深刻な円高不況を招き、「失われた20年」が続くきっかけとなった。7月の日銀の利上げは、その二の舞になりはしまいか。奇しくも、’00年8月のゼロ金利解除に反対した2人の日銀審議委員のうちの1人は、現在の植田総裁だった。デフレに逆戻りする「植田不況」にならないためにも、過去の教訓を生かし、日銀は迅速な軌道修正を図るべきだと考えられる。 取材・文:松岡賢治 マネーライター、ファイナンシャルプランナー/証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本 』。
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