『機動戦士ガンダム』本当に「戦いは数」なのか 現実とは異なる「宇宙世紀の戦場」
実はドズル自身が少数で戦いに臨んでいるわけだけど…?
「戦いは数だよ、兄貴」 劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』のなかで、「宇宙要塞ソロモン」を守るジオン軍司令官「ドズル・ザビ」中将が、兄でジオン軍最高指揮官である「ギレン・ザビ」総帥に言った、名セリフです。 【画像】「ビグ・ザム」だけじゃない! こちらがドズル中将の愛でた専用機や艦艇です(11枚) 実際、軍隊の戦力評価には「ランチェスターの法則」という数理モデルがあります。例えば100人の兵士と60人の兵士が、銃火器を用い一方が全滅するまで戦った場合、100人の側は残り40人ではなく80人、生き残るという考え方です。ここだけ見ると「戦いは数」は正論と感じます。 しかし『ガンダム』の宇宙世紀では往々にして、「戦いは数」ではありません。名セリフを発したドズル中将自身にしても、「一年戦争」序盤の「ルウム戦役」では少数の側で勝利しています。 ルウム戦役での地球連邦艦隊の戦力は、戦艦48、巡洋艦63、その他202隻で合計313隻でした。対するジオン艦隊は戦艦4、重巡洋艦26、軽巡洋艦53、その他56隻で合計139隻ですから、性能を考慮しない場合、ジオン軍艦艇数は連邦軍の44%に過ぎません。巡洋艦以上の戦闘艦艇では、111隻対83隻と差が縮まりますが、艦隊の主力となる戦艦数で48対4ですから、いかにジオンのグワジン級が、連邦のマゼラン級よりも高性能の戦艦とはいえ、連邦軍の勝利は疑いないほどの戦力差があるといえるでしょう。 ところがルウム戦役後の残存艦艇は、連邦軍が313隻中42隻(巡洋艦以上36隻)、ジオン軍が139隻中96隻(巡洋艦以上58隻)ですから、ジオン軍の圧勝といえます。先述した通り、数の差を覆せないのがランチェスターの法則ですから、戦局を逆転させた「モビルスーツ」の威力はあまりにも大きく、宇宙世紀の軍備が以後、モビルスーツ中心に整備されるのは当然という結果です。 劇中で「戦いは質」を顕著に示しているのは、『機動戦士ガンダム』第33話で描かれる、地球連邦軍ホワイトベース隊と、ジオン軍コンスコン艦隊の戦いです。連邦軍の強襲揚陸艦1隻、モビルスーツ3機、宇宙戦闘機2機に対して、ジオン軍は重巡洋艦1隻、軽巡洋艦2隻、モビルスーツ12機(テレビ版では18機説もあります)を投入しています。 ジオン側は艦艇数で3倍、艦載機数でも2.4倍の戦力を投入していますから、艦隊を指揮する「コンスコン」が戦闘開始前に勝利を確信するのは当然です。しかし、超人的技量を持つ「アムロ・レイ」が操縦する「ガンダム」の活躍で、ジオン軍側は全滅し、地球連邦軍は損害なしで終わっています。 ジオン軍が連邦軍の物量に敗れたといわれる地上戦「オデッサの戦い」でも、ジオン軍逆転の切り札である水爆ミサイルを、「ガンダム」が撃墜することで防いでいます。これがなければ、連邦軍は負けていたかもしれません。