結成40周年PERSONZ、“最新のライブこそ常に最高潮”という矜持:レポート
結成40周年を迎えたPERSONZが2024年12月30日、大手町三井ホールで『PERSONZ 40th Anniversary Tour 2024 40th FLOWERS encore』を開催した。 【写真】大手町三井ホールでのライブの模様 これだけ高水準の楽曲群を極めて高度な歌唱力と演奏技術で事もなげに披露するバンドが今なお健在であること、コロナ禍を跳ね除けて“最新のライブこそが常に最高潮である”というバンドが貫く美学に、改めて舌を巻いた。 2024年に結成40周年を迎えたPERSONZによる記念ツアーのアンコール公演。年の瀬に大手町三井ホールで掉尾を飾るのは昨年に続き2年連続で、この日のみならず6月から7月にかけて行なわれた9本のツアーは全会場でチケットが完売したというのだから未だ根強い人気と期待値の高さが窺える。 通常、こうした大きな節目となる周年ツアーの演目は自身の代表曲を満遍なく散りばめるものだが、40周年記念の最新作『40th FLOWERS』に収録した新曲がセットリストの大半を占めるという構成がニュー・ウェイヴを出自とするPERSONZらしく、実に粋だった。 ヒット曲の多いバンドだからこそ実現し得る「40thメドレー」、「7COLORS -Over The Rainbow-」という最大公約数的ナンバーを披露した後は、五里霧中の世界の中で高らかに希望を唄う「EVERY DAY IS A NEW DAY」以降、6曲続けて瑞々しい新曲を畳みかけた。長いキャリアを積むバンドほどライブでは代表曲を求められ、最新アルバムの最新曲を実演する機会は少ないのでこうした取り組みは大歓迎だし、レコーディングした新曲をライブで表現することがその曲の完成であるというメンバーの自負もあるのだろう。従来の曲作りとは異なるアプローチを経て生まれたという新曲の数々が、40年不動の4人── JILL、本田毅、渡邉貢、藤田勉によって奏でられる。誰一人欠けることなく鮮度の高い新曲を届けること。それは決して当たり前のことではない奇跡の数珠繋ぎであり、41年目も変わらずバンドを続けていくのだという雄弁なステートメントに思えた。 中でも白眉は、今回のツアー本編では披露されなかった「ANONYMOUS WHISPERS」。JILLが『KYOTO GRAPHIE 京都国際写真祭』の展示作品からインスパイアを受け、2022年、ヒジャブの着け方を理由に道徳警察に拘束されたクルド系イラン人女性のマフサ・アミニさんの死が発端となり、イラン全土に広がった反政府デモ=「女性、命、自由」運動(詳しくは「マフサ・アミニの死」を検索していただきたい)をモチーフの一部にした楽曲だ。表だって声高に語れない声なき声、“匿名の囁き”が世界中に溢れている哀しき現実。こうした社会性を帯びたメッセージ・ソングこそ時代とシンクロした表現を発信し続けるPERSONZの真骨頂であり、40周年の締め括りに聴けて嬉しい一曲だった(JILLも「唄えて良かった」と話していた)。 今を生きる大切さを説く「LIVE FOR TODAY」は未だ復興の兆しが見えない能登半島地震の被災地を想起せずにはいられなかったし、これからもずっと唄い続ける覚悟が綴られた「SING ALONG FOREVER ~そばにいるよ~」では“今夜はずっと”という一節をみんなで唄う場面もあり、オーディエンスとの一体感がとりわけ印象的だった。JILLが「(一緒に唄うのを)気持ち良くてやめられない」と漏らすのも納得で、40年間培ってきたバンドとファンの揺るぎない結束と信頼を感じた瞬間だった。 近年のPERSONZには欠かせない客演奏者であるおおくぼけい(アーバンギャルド)によるキーボードとJILLの歌のみで披露された「硝子の涙」もまたこの日のハイライトで、エモーショナルかつソウルフルな歌声が煌びやかな照明や窓の向こうのイルミネーションと溶け合い、美しく響き渡った。楽器隊3人がライブにもレコーディングにも参加していない、こうした異例の曲でも紛うことなきPERSONZであるという強い説得力を醸し出せるのは、ひとえに40年のキャリアが為せる業だろう。 ある種、「DEAR FRIENDS」の対を成す楽曲とも言える「DEAR YOU」。もう二度と会えない大切な人の影を慕う、祈りにも似た鎮魂歌。渡邉がその歌詞を読んで号泣したという、『40th FLOWERS』の中でも屈指の名曲で本編前半を締め括った後は、誰もがはしゃいで踊れて唄える賑々しいパートへ突入。本田、渡邉、藤田がソロを回し、「今日は幸せな一日にしましょう!」というJILLの言葉に応えて『天使にラブソングを2』の主題曲としても知られる「OH HAPPY DAY」のフレーズを観客とコール&レスポンス。そのまま「BE HAPPY」に繋げるという小粋な幸せ組曲だ。 「MAGIC MOMENTS」ではJILLが魔女を思わせる鍔の広いとんがり帽子を被り、持っていたステッキを一瞬にして美しい花束に変える“MAGIC”を曲中で披露。聴き手の喜怒哀楽を変幻自在に操るバンドこそ現代最高峰の魔術師なのかもしれない。 その後、「今年最後の大騒ぎだ!」とJILLが叫び「DREAMERS」へ。待ってましたと言わんばかりにフロアのOiコールが炸裂して鳴り止まない。それに応えるかのようにエフェクターの魔術師である本田がステージ下手まで駆け寄り冷静ながら激情のソロを聴かせ、渡邉は藤田の傍へ歩んで向き合いつつ記名性の高い低音を轟かせる。藤田は淡々と、だがキャリアのすべてを一打に叩き込むような質実剛健のプレイを魅せる。その勢いを保持したまま継ぎ目なく流れてきたのは「I AM THE BEST」のイントロ。“B. B. E S T. B. E. S. T. GO!”というお馴染みのフレーズは問答無用に盛り上がるが、底抜けに楽しい宴がまもなくお開きになることを予感させ、楽しさと寂しさが入り混じり去来する。 本編最後は「FLOWER OF LOVE」。「『40th FLOWERS』の中のキラキラした代表曲」とJILLが紹介した通り、40周年のこれまでと41年目のこれからを象徴する格別な一曲であり、早くもバンドの代表曲に比肩する貫禄を備えた至高の楽曲と言えるだろう。繰り返すが、こうした最新作のエッセンスを凝縮した最新曲をセットリストの要所に置くところが40年ものあいだ第一線で活躍するバンドの流儀であり、PERSONZがPERSONZたる所以でもある。 当然のようにアンコールを求める声が巻き起こり、JILLがメンバーを一人ずつ呼び込んで挨拶する。そこで3月から5月にかけて『QUEST FOR TREASURE LAND』と題した“neo acoustic tour”を、7月から9月にかけて『WELCOME TO WONDER LAND』と題したツアーを敢行することを発表。「宝探しに付き合ってください。みなさんついてきてください」と伝えた。驚くべきことに、両ツアーを合わせると実に30本以上のライブを全国各地で行なうことになる。しかも、6月には40周年を締め括るライブ『PERSONZ 40th Anniversary FINAL ONE NIGHT ONLY DREAM LAND』まであるのだ。メンバーの平均年齢63歳の最長不倒バンドが40周年以上に活発なツアーを展開させるのだから尋常ではない。この日の40周年アンコール公演、引いては40周年というアニバーサリー・イヤーはPERSONZにとってあくまで通過点に過ぎないのだと感じられたし、それを強調するかのようにアンコールの1曲目は2025年へ襷を繋げるような最新曲「東京タワーであいましょう」が用意されていた。昨年8月に開催された『PERSONZ 東京タワー EXHIBITION』の夏休み大人自由研究プロジェクトという企画から生まれた楽曲であり、ステージ後方の窓には実際に東京タワーが眩く光り佇んでいる。“WELCOME TO WONDER LAND”というツアー・タイトル同様の歌詞が使われている通り、“WONDER LAND”は“FLOWER”に代わる2025年のキーワードとなるようだ。 続く人気曲「TOKIO'S GLORIOUS」でフロアはさらにヒートアップ、本田と渡邉が立ち位置を逆転させるなど見せ場を作り、大団円を迎えた。それでもアンコールの声は鳴り止まず、Wアンコールへ。再びおおくぼけいが登場し、翌日の大晦日に誕生日を迎えた本田へバースデー・ケーキ贈呈のサプライズ。 和やかな祝事の後に奏でられた「SINGIN'」がまた実に素晴らしかった。おおくぼをゲストに迎えた意義のある、ゴスペルの要素も感じさせる秀逸なアレンジで、誰かの人生のほんの少しの気持ちを歌で動かしてきたPERSONZの40年の歩みを象徴する楽曲と言えよう。「歌は世につれても、世は歌につれない」とは某著名ミュージシャンの言葉だが、歌は決して非力ではない。いつの時代も誰かの心にそっと寄り添い、聴く人の気持ちの風向きを僅かでも変えることができる歌の力を、PERSONZの奏でる「SINGIN'」を聴く限りあなたも私も信じることができるはずだ。 「来年まだ唄えているかはわからない。でもそれを信じて続けていく。こうしてバンドが40年続いているのは素晴らしいこと」というJILLのMCに導かれ、最後に披露されたのは「DEAR FRIENDS」。バンド結成の翌年秋に生まれ、長く曲がりくねった道程の中でPERSONZを明るい表通りへと連れ出した運命的楽曲であり、まさにPERSONZと同義語、もとい同義曲と言うべき一曲だ。“親愛なる友人たち”へ捧げられ、ライブではオーディエンスの合唱が加味され成り立つこのバンド屈指の代表曲も、産声を上げてから今年で40年。世界の分断が加速し、他者との繋がりが希薄になる一方の現代にこそ、「DEAR FRIENDS」は、PERSONZがありったけのエールを送る応援歌は、今後ますます不可欠なものとして愛聴され続けるだろう。 最後は来たる2025年へ向けて観客と共に三三七拍子。2時間半弱に及ぶ渾身の熱演で大輪の花を咲かせた40周年という節目の幕を閉じた。 不動のメンバーで更なる高みを目指し、まだ見ぬ景色を求めて宝探しを続ける。当たり前のように存在し続けているように見えるが、こんなバンドは他にいない。彼らと同時代に生きる私たちはつくづく果報者だし、PERSONZがライブと創作の双方で自己ベストを更新し続けるのは日本のロック史におけるエポックメイキングに他ならない。 心に花束を。愛に祝福を。PERSONZの4人に最大級のリスペクトを。 文:椎名宗之 写真:アンザイミキ