「わたしと同じ障がいを持つ人っている?」探し続けた末にたどり着いた「愛すべきありのままの自分」
■ 親たちの苦悩 大勢の親たちはエラ同様の障がいのある子どもたちに手術を受けさせようとする。手術に次ぐ手術で子ども時代をつぶしてまでも、なんとか障がいを軽くさせたい。 3歳のディランは長い方の脚を矯正し、足首とかかとの骨を切り離し、膝にプレートを入れ、さらに大腿骨も切るという大手術を控えている。ディランの母は「手術をキャンセルしたら娘の可能性を摘む気がする」「せめて片足はまともに」「車椅子だけの人生にならなくて済む」という。 エラは「障がいを治す」という考え方にショックを受ける。 車椅子の人生は不自由なのだとしたら、それは社会に問題があるのではないか。エラにとって、車椅子は「自由のツール」なのだという。「私は自分の体が好き。このままでかまわない」。 妊娠26週目に血栓症が両脚の広範囲に広がり、エラは予定日の1カ月も前に帝王切開で出産せざるを得なくなる。2019年、息子リヴァーが誕生。やがて3歳になった彼を連れ、コロナ禍、一家はアメリカへと取材旅行に向かう。やっと見つけた、彼女と似た障がいのある女性、アメリカ在住のプリシラに会うためだ。 直接、会って話した2人はこれまでの経験、つらさ、恋愛、どうやって自分を受け入れてきたかを共有、大いに盛り上がる。 さらに障がいがあるユーチューバーのリカルドからはサッカーをやっていた中学校時代、車いすの人から「君みたいになりたい」と言われたことが自分を好きになるきっかけになったと聞く。
一方で、リカルドを慕う、やはり障がいのあるチャーリーの母親は息子に脚の矯正手術を受けさせるべきか、成長後に自分で判断させるのか、もう4年も迷っているという。 「チャーリーはパーフェクト」というエラの話を理解しながらも「親として、どうすべきか日々迷っている」と正直に答える母。 ■ 他人と見た目は違っても「壊れていたわけじゃない」 骨延長手術は通常、3歳で行うものだそうだ。医師によれば、3歳なら、どんなに辛くても記憶に残らないとか。ただし、本人が判断することはできず、それは当然、親が決めることになる。もし手術をしたくても今のエラには手遅れだが、彼女は自分の親が手術を受けさせなかったことを恨むどころか、両親に感謝の言葉を送る。 「だって壊れていたわけじゃない」と答える母親。このお母さんだからこそ、エラも自身をまっすぐに見つめ、素直に愛することができるのだ。 非障がい者が普通なのではなく、ただ統計的に多いだけ。普通なんてない。みんな違って当たり前。 「私が望むのは、世の中が障がい者を受け入れること」とエラ。「相手にどう接するかで世界は変わる。“同じ障がい”にこだわったけど、探す必要はもうない」。 『わたしの物語』 6月22日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー全国順次公開 監督・出演:エラ・グレンディニング 製作:ナターシャ・ダック/ニッキ・パロット/リサ・マリー・ルッソ/マーク・トーマス 原題:Is There Anybody Out There? © HOT PROPERTY ITAOT LIMITED 2023
髙山 亜紀