看板に診療科目あるのに「休診」、最長18年も…地域医療中核担う県立病院の医師不足深刻 人材派遣へ頼みの綱の大学も、研修医は環境整う都市部へ流出
鹿児島県内で地域偏在による医師不足が深刻だ。現在、3県立病院5診療科で、標ぼう科目の休診が続く。最長で18年以上に及ぶが、いずれも医師確保のめどは立っていない。県内唯一の医師養成機関・鹿児島大学の医局も厳しい現状にある。関係者からは「地域医療体制の再構築を考えるべき」との声も聞かれる。 【写真】鹿児島県の医師臨床研修採用の推移
県によると、県民健康プラザ鹿屋医療センター(鹿屋市)で2006年7月に整形外科、08年4月に耳鼻咽喉科、10年4月に薩南病院(南さつま市)の整形外科が相次ぎ休診した。その後も22年4月に北薩病院(伊佐市)の外科、23年5月には新築移転したばかりの薩南病院で血液内科が休診となった。 いずれも必要な常勤医師を確保できなかったことが理由。このほか、休診には至っていないものの、大島病院の精神科や眼科など4病院10診療科が、非常勤の応援医師で対応している。 県内の人口10万人当たりの医師数は全国平均を上回る。だが、医療圏ごとに見ると、鹿児島市を含む鹿児島医療圏以外は全国平均を下回る。地域間偏在が顕著な中、県の頼みの綱が鹿児島大学の医局だ。 県は「地域の中核的医療機関としての役割を担い続けるためには、大学からの継続的な派遣が基本」とする。一層の連携強化に向け、各医局を訪問するなど理解を求めている。
一方、県唯一の医師養成機関である鹿大にも厳しい事情がある。04年度から医師の新臨床研修制度が始まり、都市部の病院に医師が流出。新型コロナウイルス禍で一時歯止めが掛かったものの、24年採用の研修医は22人。04年の4分の1に減った。派遣要請は県内外の他の公立、民間病院からもある。 坂本泰二院長は「地域医療を守ることは大学の使命。県とも多方面で協力しなければならない」としつつ、「人員が不足し、若手医師の教育環境や設備面で県内格差もあって要請に応えきれていない」と明かす。 先月下旬、医師臨床研修マッチング協議会(事務局・東京)が公表した25年度の臨床研修医と県内の研修病院の最終マッチング数は12病院84人。募集定員(計154)を大きく下回り、中でも鹿大病院(定員56)は13人で差が際立つ。 かつて鹿大医局に在籍した医師は「総合内科や総合外科的な働きにしないと地方の中核病院は持たない」と指摘。「現状を踏まえ、大学を中心に実際的な人材の運用を目指していく必要がある」と話す。
別の出身者も「地域によっては専門医より何でも診る総合診療医が必要。行政は大学と連携し、地域枠医師の育成の仕方などを考えるべき」と語る。地域の疾病データを踏まえて各地域の公的医療提供体制を構築することが重要とし、病院の再編統合を進める兵庫県や広島県を例に「鹿児島も病院再編を真剣に検討しなければいけない」と訴える。 ■医師臨床研修制度 診療に従事しようとする医師は、免許取得後に指導を受けながら2年以上、臨床研修を受けなければならない。2004年度から義務化され、都道府県知事が指定する病院などが受け入れる。研修予定者と指定病院双方の希望をすり合わせるマッチングで研修先が決まる。
南日本新聞 | 鹿児島
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