「満足してんじゃねえぞと…」名古屋グランパス、稲垣祥に訪れた苦境。「自覚している」2失点関与に何を思ったのか【コラム】
明治安田J1リーグ第10節、浦和レッズ対名古屋グランパスが28日に行われた。6戦無敗でこの試合を迎えた名古屋は、上位陣にプレッシャーをかけたかったところだが、1-2で敗れている。その2失点に絡んでしまったのが、この日がJ1通算300試合目の出場だった主将・稲垣祥。節目のゲームでのプレーに、何を思ったのだろうか。(取材・文:元川悦子) 【動画】浦和レッズ対名古屋グランパス ハイライト
●名古屋グランパスは優勝争いに参戦したかったが… 2024年の大型連休に突入し、明治安田J1リーグも節目の第10節を迎えた。前節に首位奪還を果たしたFC町田ゼルビアがジュビロ磐田に敗れ、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島もドローに終わる中、6戦無敗で5位につけていた名古屋グランパスとしては上位陣に肩を並べるビッグチャンス。4月28日のアウェイ・浦和レッズ戦を制して、優勝争い参戦を果たしたかった。 キャスパー・ユンカー、山岸祐也、酒井宣福らFW陣に、左サイドの山中亮輔と負傷者が相次ぎ、守備の要であるハ・チャンレも出場停止と厳しい状況に見舞われた長谷川健太監督。だが、今回は24日のYBCルヴァンカップ・大宮アルディージャ戦でいい働きを見せた中山克広や大卒新人・倍井謙らをスタメン起用し、攻撃の活性化を図った。 そんなチームを統率するのが、ボランチの稲垣祥だ。2014年に日本体育大学からヴァンフォーレ甲府入りし、プロキャリアをスタートさせてから、この日でJ1・300試合目。節目の一戦を白星で飾るとともに、自らの存在感をしっかりと示したかったはずだ。米本拓司との30代ボランチコンビの安定感はJ1随一とも言われるだけに、浦和のボール回しを確実に封じたかった。 序盤の名古屋は主導権を握り、押し込む展開に持ち込むことができた。 ●「自分自身の対応も紙一重の世界で戦っている」 「4月をここまで駆け抜けてきて、自分たちのやりたいことを出せた試合と出せなかった試合がある中、今日が展開的に一番悪い感じじゃなかった」と指揮官もコメントした通り、右FWの中山のスピード、左シャドーの倍井の打開力を有効活用しながらの攻めは迫力が感じられた。 しかし、彼らは24分、一瞬のスキから失点してしまう。最後尾からのビルドアップの際、左にいた和泉竜司がヘッドで中央へボールを出したが、稲垣のトラップが高く浮き、チアゴ・サンタナに引っかけられてしまったのだ。直後のチアゴの縦パスは稲垣がいったんカットしたかと思われたが、突っ込んできた安居海渡に拾われ、そのままゴール。 「焦ったというか、もうあれしか反応できなかった」と言う名古屋の背番号15は、まさかの出来事になす術を見出せなかった。 とはいえ、まだ時間は十分にある。すぐに切り替えて反撃に打って出るしかなかった。1点をリードした浦和もそれまでとは見違えるほど攻撃のギアを上げてきて、名古屋は守勢に回る展開を強いられたが、前半のスタッツ自体はほぼ互角。そのまま折り返した。 迎えた後半。両者ともにゴールを割れない時間帯が約20分間続き、長谷川監督はパトリック、内田宅哉、椎橋慧也の3枚替えを準備。そのタイミングでまたも予期せぬ展開が起きてしまう。 浦和はアレクサンダー・ショルツが奪ったボールをサミュエル・グスタフソンがキープし、前を走る伊藤敦樹に供給。右にいた前田直輝に出した。こうなれば、生粋のドリブラーは確実に突破を仕掛けてくる。それは昨季まで同僚だった稲垣には予想できたこと。自然と体が反応し、しっかり足を出して阻止したはずだった。が、結果的にペナルティエリア内で倒す形になり、荒木友輔主審にPKを宣告されるに至った。 結局、これをチアゴ・サンタナに決められ、名古屋の2点ビハインドに。稲垣は記念すべき試合で2失点に絡むという苦境に立たされたのだ。 「(直輝の突破に対しては)だいぶウチが後手後手で遅れちゃったんで、もっといい対応できればよかったんですけど、そこは個人的に反省するしかない。あそこまで持っていかれたところに僕らの落ち度があったし、自分自身の対応も紙一重の世界で戦っているので、突き詰めていくしかないと思います。 300試合目で2失点に絡んだことも、いい意味で自分への教訓。『満足するんじゃねえぞ、引き締めろ』って神から言われてるんだと思います。さらに引き締めて頑張っていかなきゃいけないですね」と本人は気丈に前を向いた。そうやってミスを前向きに消化できるのが稲垣祥という人間の強さなのだ。 ●「ボランチがどういう働きをするかで…」 実際、プロ10年間のキャリアも順風満帆というわけではなかった。2014~2016年の甲府時代は主軸の1人として試合に出ていたが、ポジションは本職のボランチではなくシャドーがメインだった。2017年にはサンフレッチェ広島にステップアップするも、青山敏弘や吉野恭平らボランチ陣の選手層、アンカーシステムを採用した戦い方もあって、1年目はコンスタントな活躍が叶わなかった。 2020年の名古屋移籍後は一気に存在感を高め、日本代表にも上り詰めたが、チームのJ1制覇は叶っていない。稲垣自身も「いい選手だが、何かが足りない」という印象が拭えないところがあった。向上心の強い男だからこそ、J1・300試合目の浦和戦で「自分はもっともっとやれるはず」と新たな野心を抱いたに違いない。今回の手痛い2つのミスを今後の飛躍の契機にできるのであれば、彼にとっても、チームにとってもポジティブだろう。 結局、名古屋は和泉が終盤にリスタートから1点を返したが、1-2で敗戦。7戦無敗とはならず、順位も6位に後退してしまった。節目の試合でチームを勝利に導けなかった中盤のリーダーは深く反省しつつも、ここから再浮上へとけん引することを誓っていた。 「自分たちボランチが攻守に重要なのは分かっていますし、ボランチがどういう働きをするかでゲーム内容も変わってくるなっていうのも自覚してるんで、そこは責任感じながら、しっかりやっていきたいなとは思います。チームもまだまだ満足できない。もっと上に行きたいですからね。ただ、6試合負けてなかった中で1敗して、どう踏ん張れるかが肝心。次にどういう戦いができるかが大事だと思うんで、しっかり結果こだわってやっていきたいです」 稲垣が語気を強めるように、今後の名古屋はヴィッセル神戸、広島と上位対決が続く。5月はルヴァン含めて7試合もある。ここをどう乗り切るかで今季の方向性が決まると言っても過言ではない。それだけに、彼自身も気合を入れ直す必要がある。 節目の一戦で突きつけられた現実を直視し、勇敢に前へ突き進むこと。稲垣ならそれができるはずだ。 ▽著者:元川悦子 1967年、長野県生まれ。94年からサッカー取材に携わり、ワールドカップは94年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6回連続で現地に赴いた。「足で稼ぐ取材」がモットーで、日本代表は練習からコンスタントに追っている。著書に『U-22』(小学館)、『黄金世代』(スキージャーナル)、「いじらない育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(NHK出版)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)などがある。 (取材・文:元川悦子)
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