2004年9月17日、記者会見中、無念の表情の古田選手会会長（左）と瀬戸山協議交渉委員長。労使協議で妥協点を見出せず、ストライキが行われる

＜寺尾で候＞ 　日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 　　　　　◇　　　◇　　　◇ 　プロ野球が消えた日－－。2004年はプロ野球界がもっとも激震に見舞われた年だった。9月18日は史上初のストライキに突入した日だ。19日も行われた2日間で、セ・パ両リーグ12試合が中止。国民的スポーツの象徴は最大の危機に見舞われる。 　その前夜、近鉄・オリックスの合併合意に端を発した選手会と経営者の交渉が決裂。縮小均衡で「1リーグ制」への移行をもくろむ経営者に、選手会が「セ6、パ6」を維持するのに「最大限の努力」を求めたが受け入れられなかった。 　選手会と協議する選手関係委員会委員長で、ロッテ球団代表だった瀬戸山隆三と会ったのは、東京・内幸町にある帝国ホテルのティーラウンジだった。当時隣にNPBがあった。ダイエー、ロッテ、オリックスで要職を務めた男は、激動した年を鮮明に覚えていた。 　「選手会は、近鉄、オリックスの合併を1年だけ延期し、その間に今後の球界の在り方について議論しましょうと言い続けた。ある意味、正論です。でも合併は組織間のことだったし、根来コミッショナーも『権限がない』と主張した。結局は合意に至らなかった」 　約1週間前に近鉄・オリックス合併を凍結するシュミレーションが話し合われた。ストライキ回避の可能性が出た会見の席上、瀬戸山は労働組合・プロ野球選手会会長の古田敦也に握手を求めたが、古田は応じなかった。そして最悪の事態に向かうのだった。 　ホリエモンこと、堀江貴文が社長の「ライブドア」が球界参入に名乗りを上げると、「楽天」が検討に入ったことが表面化。球界に影響力を持った複数のオーナーが「1リーグ」を画策し、その間に「もう1つの合併」が進行した。 　最大の権力者で、巨人オーナーだった渡辺恒雄がスカウト不正問題で突如辞任して衝撃が起きた。また後には西武グループ総帥、オーナーの堤義明も辞任。現場には野球担当に政治、経済記者も混じって、毎日騒然とし続けた。 　瀬戸山が球界再編のポイントの1つに挙げたのは「球団を売却せざるを得ない事態に陥っていたダイエーが、なかなか態度を明確にしなかったことだ」と説明した。ダイエーの動きは後述するとして、ストライキが決行されても、だれも“勝ち組”にならなかった。 　それは労使双方にとってファンを裏切る行為でもあったからだ。巨人人気に依存した歴史の大転換期。2リーグ制が維持され、新球団が誕生し、「セ・パ交流戦」が導入されるなど構造改革が進んだ。なにより赤字体質のパ・リーグが息を吹き返した。 　球界再編の代償は大きかった。最高責任者で、コミッショナーの根来泰周までが辞意を表明。野球協約はプロ野球を「社会の文化的公共財」とうたってきた。なにかと大リーグに支配されかねない状況に、真剣に考えるための、気を引き締める日でもあった。（敬称略）【寺尾博和】