魔王が主人公で異世界を蹂躙?邪道を突き進む「オーバーロード」のおもしろさ
丸山くがねによる小説が原作で、2015年にテレビアニメが放送スタートしたダークファンタジー「オーバーロード」。本作はこれまでにテレビシリーズが4期、劇場総集編が2本、ミニアニメの制作や他作とのコラボアニメへの参加なども行われ、熱狂的な支持を集めてきた。そして今回、22年に放送された第4期から2年ぶりの新作となる『劇場版 オーバーロード 聖王国編』(以下『聖王国編』)が公開となった。ファン待望の『聖王国編』を観るにあたり、注目ポイントとこれまでの物語を復習していきたい。 【写真を見る】優秀すぎる配下に翻弄されながら、世界征服のために突き進んでいくアインズ ■突然、魔王となった主人公が世界征服を目指して異世界を突き進む 「オーバーロード」の物語は2138年、一大ブームを築いたDMMO-RPG「ユグドラシル」のサービス終了日から始まる。大手ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」を運営していたプレイヤー、モモンガ(声:日野聡)はゲーム内で最後の時を迎えようとしていた。しかし、予定時刻が過ぎても強制終了されず、ゲームで使用していたアバターと能力も持ったままで、なぜかNPCキャラクターたちには自我が芽生えていた。なんとモモンガたちはユグドラシルに似た異世界へと転移していたのだ。かくして、モモンガは自身の名前をギルド名と同じ「アインズ・ウール・ゴウン」へと変え、ナザリック地下大墳墓を拠点に世界征服を目指して行動を起こすこととなる。 第1期では異世界に関する調査を主軸に、ここで暮らす人間や魔物を相手に圧倒的な力を見せつけるアインズたちの活躍が描かれた。続く第2期ではリ・エスティーゼ王国やリザードマンの集落を中心にアインズに従う者たちが暗躍する策謀と生存戦略のドラマが、第3期では王国とバハルス帝国の戦いにアインズが介入し、国家間の戦争にまで発展する壮大な物語が、第4期ではアインズらが建国したアインズ・ウール・ゴウン魔導国と王国の戦いを軸に、アインズらのさらなる進撃と世界観の広がりが展開されていった。 ■優秀すぎるアインズ配下の強者たち 本作の肝を担うのが、主人公であるアインズらナザリック地下大墳墓を盛り立てるキャラクターたち。アンデッド種族のアバターだったアインズは骸骨の姿をしており、その禍々しさと魔法使いとしての強大な力は、まさにこの世界における”魔王”というべき存在だ。 そんな彼の配下であるNPCも各々が一騎当千の強者ばかり。ナザリック地下大墳墓の全NPCの頂点に立つ守護者アルベド(声:原由実)に吸血鬼のシャルティア(声:上坂すみれ)、ダークエルフの双子アウラ(声:加藤英美里)とマーレ(声:内山夕実)、悪魔のデミウルゴス(声:加藤将之)、蟲王のコキュートス(声:三宅健太)といった個性あふれる面々に加え、守護者以外にも執事やメイド隊など様々な役職を持った配下が登場する。 アインズを筆頭にこの全員が、異世界で並ぶ者がいないほどの強さの持ち主。他種族に対する慈愛や道徳観などは持っておらず、彼らが時に平和な国を蹂躙し、時に敵対者を謀略にかけ、勢力を広げていく様子が見どころとなっている。一方で、周辺国の人々からすれば、アインズたちは“異世界からの侵略者”であるのもポイント。悪の魔王が主人公となり、立ち向かってくる勇者たちを打ち倒し、しかし力のみに頼らない巧みなかけ引きによって勢力圏を拡大していく。この王道を打ち破る邪道なストーリー展開にはどこか観る者を引きつける魅力があり、アインズたちによる圧倒的なパワーゲーム、普通では思いつかないような残酷な描写にも不思議と爽快感を感じることができる。 ■魔皇ヤルダバオトに攻められた聖王国を救うためにアインズが立ち上がる? さて、最新作となる『聖王国編』はテレビアニメ第4期の続編なのか?実はそうではない。本作は第4期の第7話と8話の間に起きた事件を描くエピソードになっている。 舞台となるのは、デミウルゴスが変装した姿である“魔皇ヤルダバオト”に襲撃されたローブル聖王国。国の窮地に聖王国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国に救援要請を行い、アインズが直々に向かうことになる。つまりアインズたちにとってはマッチポンプ(自作自演)なのだが…二転三転していく事態を彼はどう収めるのだろうか? 聖騎士団長であるレメディオス(声:生天目仁美)や騎士団の従者ネイア(声:青山吉能)といった聖王国の人々の視点とデミウルゴスの計画に応えようとするアインズ、それぞれの苦悩や葛藤、思惑を軸に物語は進んでいく。本作の鍵を握るネイアの動向や、デミウルゴスの智略、劇場版ならではの迫力ある映像で描かれるアインズの戦闘シーンは特に必見だ。 勇者が魔王を倒す。正義が悪を打ち破る。そんな勧善懲悪、予定調和の王道物語に飽きた人や、新鮮な切り口の物語を求めている人にこそ勧めたいダークファンタジー「オーバーロード」。まだ観たことがないという人も、『聖王国編』をきっかけにアインズたちの足跡を辿ってほしい。 文/リワークス(加藤雄斗)