小学館の新文芸雑誌、創刊号は驚きの税込み510円……「小説を気軽に楽しんで」
新しい文芸雑誌が、相次ぎ存在感を発揮している。小学館は11月、「小説を、心の栄養に。」とうたう「GOAT(ゴート)」を創刊した。河出書房新社が2022年に始めた「スピン」は9号まで刊行され、好評だ。分野を横断して作品を掲載し、読書の扉を開いている。(池田創)
文芸雑誌「GOAT」創刊号の表紙をめくると、ヤギのキャラクターとともに、小説の世界へいざなう言葉が目に飛び込んでくる。再生紙を使った500ページを超す雑誌は柔らかな手触りで、じんわりと手になじむ。
創刊号の特集は「愛」で、市川沙央さんや尾崎世界観さんらが愛にまつわる小説を寄せたほか、韓国作家のパク・ソルメさんの邦訳などが並んだ。他にも町田そのこさんのエッセー、最果タヒさんの詩なども掲載する。「ジャンルや国境を越える」ことを掲げており、純文学、ミステリー、SFなどくっきりジャンルが分かれている既存の文芸雑誌への挑戦心がにじむ。
三橋薫編集長(45)は「これまでの文芸雑誌は、初めての人には買いづらい面もあった。もっと外に開いていかないと、読書人口は増えない。小説を気軽に、カジュアルに楽しんでもらいたい」と語る。
誌名の由来は紙を愛してやまないヤギと、ネットスラング「Greatest Of All Time」(かつてない)な文芸誌にしたいという思いを込めた。創刊号は510円(税込み)と手に取りやすい価格に設定した。
版元の小学館は漫画や児童向け書籍が刊行物の柱で、「文学界」の文芸春秋や「群像」の講談社などに比べると、文芸雑誌の分野は後発だ。
出版不況で、小学館は刊行していた「本の窓」「きらら」を紙の雑誌として出すことをやめ、「STORY BOX」を昨年秋にデジタル化した。紙の文芸雑誌が一誌もない状態が続いていた。社内有志から紙の雑誌を出したいという声が上がり、今回の創刊につながった。三橋編集長は「他社さんに比べると後発だが、後発だからこそチャレンジできる面もある」と語る。