薬に頼っているだけではダメ。過敏性腸症候群(IBS)を改善する日常生活のヒント
運動はすべてのタイプにおすすめしたい「百薬の長」
日本人は腸の形が四角でない人が多く、運動不足ではIBSになる危険性が高まります。「ラジオ体操第一」を5年間、毎朝おこなうようにしているうちに、腹痛の起こる頻度が著しく低下したという例もあります。このように、お腹の状態をよく保つためには体操もよいですが、継続できる楽しい運動をみつけるのは、よりすばらしいことです。 「腸管形態型」(第6回の記事を参照)には運動が特効薬ですが、ストレス型など、ほかのタイプのIBSでも有効です。 適度な運動はストレスや不安を軽減します。運動を集中しておこなうと、そのときはマインドフルな状態になります。とくにストレス型で不安と症状の悪循環に陥っている患者さんには、非常によい効果をもたらします。 子どもの患者さんも同様です。さまざまな学校の保健室の調査に行くと、運動を奨励している学校や体育学部などでは、IBSや便秘がほとんど問題になっていないことには本当に驚きます。個人個人をみると、おなかのトラブルがまったくないわけではないのですが、運動の効用で、症状が起きにくくなる、あまり気にしすぎなくなるという現象があるようです。 IBSは体質です。体質とつきあうため、そして健康な心身を保つためにも運動をしましょう。ただ、いままで運動していなかったのに、いきなりはりきってやってしまうと、疲れがたまってストレスになることもあります。無理なく続けられることが肝心です。
IBSを治療するための重要なポイントは「ストレス解消」
ストレス型のIBSは「なんらかのストレス」で発症します。そこに「病気のことを考えるストレス」が加わるので、悩めば悩むほど症状が悪化してしまいます。ストレス型でなくても、IBSでは痛みに対する知覚が研ぎ澄まされます。痛みはストレスになり、つねに緊張しています。 ストレス解消はIBSの治療ではとても重要なポイントです。ストレス解消には自律訓練法やマインドフルネスが効果的です。「自律訓練法」はドイツの精神科医ヨハネス・ハインリヒ・シュルツが提唱した自己催眠・リラクセーション法です。ストレス緩和の効果があり、心身症や神経症などに有効とされています。 「マインドフルネス」は、ストレスや不安を取り除き、心を休めるリラクセーションです。過去の経験や先入観にとらわれることなく、五感に意識を集中させます。そして、現在の気持ちや現在の身体状況といった現実をあるがままに知覚し、現実に受け入れられている状態を感じて、リラックスします。マインドフルネスにはいくつかの方法がありますが、ここでお伝えする「瞑想」は、そのひとつの方法とされます。 一日に一回はおこない、心も体もリラックスさせましょう。 【自律訓練法】 1. 準備をする 体をしめつけるものをはずす。スマホなど気が散るものは置かず、静かな場所で横になるか椅子に座って、気持ちを落ち着ける。仰向けに寝るときは、足と腕を軽く開いて力を抜く。手のひらは上向きでも下向きでもかまわない 2. ゆっくり呼吸する 軽く目をとじ、ゆっくり呼吸をする。口元の力も抜く 3. 手足の重さを感じる 気持ちが落ち着いてきたら、「右手が重たい」「左手が重たい」「右足が重たい」「左足が重たい」と順番に意識を向ける。心の中で何回かくり返す。これは右利きの人の場合で、左利きの人は左右を入れ替える 4. 手足の温かさを感じる 「右手が温かい」「左手が温かい」「右足が温かい」「左足が温かい」と意識を向ける(右利きの人)。心の中で何回かくり返す。左利きの人は左右を入れ替える 5. 消去動作をおこなう リラックス状態をもとに戻す。両手でグーパーをくり返したら、両手を握って腕の曲げ伸ばしをする。そのあと立ち上がって伸びをし、深呼吸をする 【マインドフルネス】 ・楽な姿勢で椅子に座る ・目はかたくとじずに軽くとじる。あけておいてもよい ・ゆっくり呼吸をしながら、おなか、鼻の穴に意識を集中させ、自分が呼吸をしていることに集中する ・深呼吸や腹式呼吸ではなく、ふだんどおりの呼吸をする ・雑念がわいてきたら、呼吸をしていることに意識を戻す 第1回〈電車に乗れない、外食できない……。腹痛と下痢をくり返す「過敏性腸症候群(IBS)」を克服するヒント〉から読む
水上 健(国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長・慶應義塾大学客員講師(IBS便秘外来))