日本人の時間の正確性はいつから?明治鉄道史から始まった定時へのこだわり
鉄道は日本人の時間の正確さの表れ
ちなみに、JRも「日本の鉄道の運行品質の高さが伝わらないのは困る」と言うことで、近年は、定時運航率をパーセンテージで表示するのではなく、列車の平均遅延時間で発表するようになった。それによれば、新幹線の年間平均遅延時間は東海道が0.4分(24秒)(JR東海2016年)、JR東日本管内の東北、秋田、山形、上越が30秒(2015年)に、JR東日本の在来線は、平均1.1分(2016年度)に、収まっている。 列車の運行は、運転手の技量だけでできるものではなく、線路の保守、車両の整備・清掃、運行管理、駅での乗客の扱いなどすべての業務の総合力で達成される。したがって、定時運行率が高い精度で維持されているのは、運行品質の高さ・安定性を表しているということだ。 これらの点が評価され、JR東日本は三井物産、オランダの鉄道会社と組んで、このほど英国の鉄道「ウエストミッドランズ」の運営権を引き受けることになった。ロンドンとバーミンガム、リバプールなどを結ぶ約900kmにも及ぶ路線網で、17年12月から10年間の契約だ。 日本社会を象徴する鉄道は、単に重要な交通手段と言うだけでなく、日本人の時間の正確さの表れでもある。 最後は、インドの日本人社会で語られるジョークで締めよう。ある会社の駐在員が本社の幹部をアテンドして駅にいると、列車がほぼダイヤ通りの時刻にホームに入ってきた。幹部は、「インドの鉄道はいつも遅れると聞いていたけど、結構正確じゃないか」。ところが、駅のアナウンスに耳を澄ませていた駐在員が言った。「まだ、褒めるには早すぎるようです。昨日の列車が丸1日遅れて入ってきたんです」と。 ---------- 織田一朗(時の研究家)山口大学時間学研究所客員教授 1947年生まれ。71年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。(株)服部時計店(現セイコー)入社。国内時計営業、名古屋営業所、宣伝、広報、総務、秘書室勤務を経て、97年独立。以後、執筆、テレビ、ラジオ出演、講演などで活動。日本時間学会理事(2009年6月~)、山口大学時間学研究所客員教授(2012年4月~) 著作:『時計の科学―人と時間の5000年の歴史』(講談社ブルーバックス)『「世界最速の男」をとらえろ!』(草思社)『時と時計の雑学事典』(ワールドフォトプレス)『あなたの人生の残り時間は?』(草思社)『「時」の国際バトル』(文春新書)『知ってトクする時と時計の最新常識100』(集英社)『時計と人間―そのウォンツと技術―』(裳華房)『時と時計の百科事典』(グリーンアロー出版社)『時計にはなぜ誤差が出てくるのか』(中央書院)『歴史の陰に時計あり!!』(グリーンアロー出版社)『日本人はいつから〈せっかち〉になったか』(PHP新書)『時計の針はなぜ右回りなのか』(草思社)『クオーツが変えた“時”の世界』(日本工業新聞社)など多数。